レビュー

概要

『JA~女子によるアグリカルチャー~(1)』は、東京から農村へ引っ越してきた小学6年生の野沢ひなげしが、新しい環境と家族のルールに向き合う物語です。父の再婚をきっかけに、ひなげしは姉妹と暮らすことになります。野沢家には「姉妹で野菜作りをする」という決まりごとがあり、ひなげしもその輪に入っていきます。

この1巻の読み味は、農作業の大変さと、家族関係のぎこちなさが並走するところにあります。引っ越しは、子どもにとって大きなストレスです。土地も学校も友だちも変わる。その上で、家のルールまで変わる。本作は、その現実をちゃんと出したうえで、「一緒にやる」ことで関係が動いていく過程を描きます。

タイトルにある「JA」は、食と仕事の世界へ踏み込む入口でもあります。農作業の話は、単なる体験に見えて、生活の土台です。食べ物の価値、季節のリズム、体を動かすしんどさ。そういう現実が、漫画のテンポで入ってきます。

読みどころ

1) 新しい家族の「距離感」が、具体的に描かれる

再婚や転居がある家庭では、「仲良くしなさい」が一番難しい言葉になります。気持ちが追いつかないからです。本作は、仲良しを急がず、まず共同作業を置きます。野菜作りは、言葉より先に同じ方向を見る作業です。この順番が現実的で、読み手の心も置いていかれません。

2) 農作業が、自己肯定感を作る装置になっている

子どもが自信を失うときは、「できる感覚」が薄れたときです。環境が変わると特にそうなります。農作業は、結果が出るまで時間がかかりますが、その分、積み上げが見えます。水をやる、土を触る、収穫を待つ。小さな行動が「育つ」形で返ってくるので、自己肯定感の回復につながりやすいと感じました。

3) 「食べる」が、人間関係の接着剤になる

家族の会話が難しい時期でも、食べ物の話はしやすいです。おいしい、まずい、好き、嫌い。感情が短い言葉で出せるからです。野菜作りは、その会話を増やします。人間関係は、深い話を1回するより、浅い会話を何度も積むほうが整うこともあります。本作は、その積み方を見せてくれます。

4) 知らない土地で生きる不安を、物語として消化できる

引っ越しや転校は、当事者にしか分からない不安があります。見通しが立たないからです。この漫画は、その不安を「農作業」という手触りに落とします。土を触ると、現実が戻ってくる。体を動かすと、気持ちが少し落ち着く。そういう感覚が、読みやすい形で描かれています。

5) 家のルールが「罰」ではなく「共同体の仕組み」として出てくる

家のルールは、子どもにとって理不尽に見えることがあります。理由が見えないからです。本作の面白さは、野菜作りが単なる作業ではなく、家族がまとまるための仕組みとして置かれている点です。ルールの意味が見えると、子どもは従うか反発するかの二択から抜け出せます。交渉や工夫ができるようになります。

こんな人におすすめ

  • 引っ越しや家族の変化があり、気持ちが落ち着かない子ども
  • 親子で読める、生活に根ざした漫画を探している家庭
  • 食や農業に興味があり、入り口として物語を読みたい人
  • 家族関係を、会話以外の方法で整えるヒントが欲しい人

感想

この1巻を読んで感じたのは、「仲良くなる」は目標であって、最初からの条件ではない、ということです。家族の形が変わった直後は、むしろ無理に仲良くしようとすると関係がこじれます。本作は、気持ちの温度差を抱えたまま始められる共同作業として、野菜作りを置いています。ここが上手いです。

仕事や勉強でも同じですが、関係を良くしたいときほど、いきなり正論をぶつけないほうがいい。まずは同じ作業をする。次に、短い会話を増やす。そのうえで、少しずつ深い話へ進む。本作は、その手順を漫画で見せてくれます。

家族の変化は、本人の意思と関係なく起きます。だからこそ、子どもには「自分で動かせる部分」が必要になります。野菜作りは、その動かせる部分になりやすい。読むと、生活の中に整う時間を作りたくなる1巻でした。

もう1つ良かったのは、食べ物の価値が値段だけに見えなくなるところです。野菜は買えば手に入ります。でも、育てると手間と時間が見えます。手間が見えると、食べる態度も変わります。家計の話も同じで、結果だけを見ると雑になりやすい。プロセスが見えると丁寧になる。本作は、そういう丁寧さを子ども向けの物語で作ってくれると感じました。

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    佐々木 健太

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