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レビュー

概要

『秋雨物語』は、貴志祐介によるホラー短編集(連作集)です。失踪した作家・青山黎明が遺した原稿を起点に、「転移現象」という説明しきれない出来事へ引きずり込まれていく。恐怖の焦点は、怪物の造形よりも、「現実の足場がズレる」感覚にあります。日常の延長にあるはずの世界が、ある瞬間から別のルールで動き出す。読者はそのズレを、じわじわ体に入れられます。

本書は「生きながら地獄に堕ちる」という強い言葉で始まりますが、そこで描かれる地獄は、単なる残虐さのショーではありません。抵抗しても、理解を試みたところで、なお逃げ道が狭くなるタイプの絶望です。ホラー4編の連作という形で、恐怖の質を変えながらも、底の方で同じ冷たさが通っている。貴志祐介の“怖さの設計”を、短編という距離で味わえる一冊です。

読みどころ

1) 「転移現象」が、恐怖を“現実の問題”に変える

幽霊や怪物より怖いのは、世界の前提が崩れることです。転移は、場所の移動というより「現実感の移動」に近い。自分の意思で戻れない、理由が分からない、説明が通用しない。そうした条件が揃うと、恐怖は一気に現実寄りになります。本書はそこを、作家・青山の記録という枠で丁寧に積み上げます。

2) 連作だからこそ、怖さが“慣れ”で薄まらない

短編集は、話の切り替わりごとにリセットのような区切りが入るぶん、恐怖は途切れやすい。本書は連作として、世界の冷たさを繋げていきます。別の話を読んでいるはずなのに、同じ底冷えが残る。その余韻が、ページを閉じた後も続くのが強いです。

3) 「説明しすぎない」ことで、想像が暴走する

ホラーの説明は、解像度を上げると同時に怖さを削ることもあります。本書は、何が起きているのかを完全には固めず、読者の想像が勝手に補完してしまう余白を残します。分かったつもりになった瞬間、また分からなくなる。その揺れが、怖さの燃料になります。

類書との比較

現代ホラーには、(1)怪異のルールを明確化してサスペンスとして走るタイプと、(2)ルールの不明瞭さで不安を増幅するタイプがあります。本書は後者寄りで、読者に「納得」を与えるより、「納得できない」状態を維持します。だから、スッキリ解決する話が好きな人には合わないかもしれません。

一方で、貴志祐介作品の魅力である“理屈の皮をかぶった恐怖”は健在です。完全な説明はないのに、出来事の手触りは妙に具体的で、現実に侵入してくる感じがある。そこが好きな人には、かなり刺さります。

本の具体的な内容(ネタバレ控えめ)

失踪した作家が遺した原稿を軸に、転移現象の記録が語られていきます。ポイントは、現象が派手に爆発するのではなく、生活を侵食する形で進むことです。抵抗するほど悪夢が深くなる、という感覚が積み上がっていくので、読者は「次に何が起きるか」より、「どこまで戻れなくなるか」に意識が向きます。

また、収録作はそれぞれ独立しながらも、共通して「逃げ道の閉じ方」が巧いです。人物が賢く動いても、努力しても、合理的に判断しても、なお詰む。だから怖い。ホラーが苦手でも、構造の巧さとして読むことはできますが、そのぶん後味は重いはずです。

注意点

恐怖の質が強めで、気分が落ちている時期に読むと引きずられる可能性があります。ホラー耐性が低い人は、明るい時間帯に短編ずつ区切って読むのがおすすめです。

また、連作の余韻が濃いので、軽い気分転換目的だと向きません。読後感の重さも含めて楽しめる人向けです。

こんな人におすすめ

  • 理屈で説明しきれない“現実のズレ”にゾッとするホラーが好きな人
  • 怪物よりも、前提が壊れていく恐怖を味わいたい人
  • 連作でじわじわ沈めてくる後味を求める人
  • 貴志祐介の怖さを、短編で濃縮して読みたい人

感想

ホラーの恐ろしさは、驚かされる瞬間より、「明日も同じ世界だと思えなくなる」ところにあると思っています。本書の転移現象は、その感覚を直撃します。理由が分からないのに現実がズレる。抵抗しても、理解しても、安心が戻らない。そこに、貴志祐介らしい冷たさがある。

短編集として読みやすいのに、軽くはない。むしろ短いから、怖さが濃い。雨の季節に合うタイトルですが、湿った空気より、底冷えのする乾いた絶望が残ります。ホラーを「怖いけど読みたい」と思う人に、強くすすめられる一冊です。

連作の強みは、「怖い話を読んだ」という点の記憶ではなく、「世界の温度が変わった」という感覚が残ることです。『秋雨物語』は、その残り方がうまい。気持ちの良い読後感ではないのに、なぜか忘れられない。そういう怖さが好きな人には、きっと刺さります。

本の虫達

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    大手出版社で書籍編集を10年経験後、独立してブロガーとして活動。科学論文と書籍を融合させた知識発信で注目を集める。
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    佐々木 健太

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