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レビュー

概要

『思い出の品、売ります買います 九十九古物商店』は、箱根強羅の温泉街にある、少し不思議な古物店を舞台にした連作風の物語です。扱うのは、ただの中古品ではありません。長く大切にされて「心が宿った」器物、いわゆる付喪神(つくもがみ)。この店では、品物が“次の持ち主を選ぶ”というルールがあり、買い物というより、縁を結び直す場所として描かれます。

店主は浮世離れした美しい女性で、最近その店に出入りする青年は、驚きの連続に巻き込まれていきます。けれど物語のトーンは怖さよりも温かさが強く、付喪神というファンタジーを借りながら、「大切にしていたもの」と「手放すこと」の間にある感情を丁寧にすくい上げます。身近な道具が急に愛おしくなる、というキャッチコピーがそのまま当てはまるタイプの一冊です。

読みどころ

  • 付喪神×古物商という設定が優しい:怪異のドキドキより、「思い出が残る」方向に効いてくるので、安心して読めます。
  • “品物が持ち主を選ぶ”ルールがドラマを作る:欲しいから買えるのではなく、選ばれることで関係が始まる。ここが切ない。
  • 温泉街・箱根強羅の空気感:下駄を鳴らして歩きたくなる町の匂いが、物語の温度を上げています。
  • 日常の道具の見方が変わる:読み終えたあと、自分の身の回りのものに自然と目がいきます。

本の具体的な内容

古物店の品物は、古いだけではありません。人の手で大切に使われ、時間を重ねたことで、特別な“心”を持つようになった器物です。だから、売買も単純ではない。持ち主の事情、品物の気持ち(のようなもの)、次の持ち主の生活。そうした要素が絡むことで、1つの品に1つの物語が生まれます。

青年は店へ通ううち、付喪神という存在を通して、「長く愛用された道具ほど思い出がこもる」ことを学びます。たとえば、使う人の癖や、手放すときの迷い、あるいはもう戻れない時間。道具はしゃべらないのに、道具を介すると、人の心は意外と語ってしまう。その構造が、連作の読み味として効いています。

また、店主の佇まいも魅力です。浮世離れしているのに、突き放さない。品物には距離を取りつつ、人とは踏み込みすぎない。縁が結び直される瞬間を見守る存在として、物語の芯を支えます。だから全体として、過剰に泣かせに来るわけでも、過剰に怖がらせるわけでもなく、静かに沁みる話が続きます。

類書との比較

付喪神やあやかしを扱う作品は、怪異譚としてのスリルが前面に出るものも多いですが、本作は“後味の優しさ”に振り切っています。怪異の正体を暴くより、ものに宿る思い出をどう受け止めるか。ここに焦点があるので、読み疲れしにくいし、落ち込んでいるときにも手に取りやすいです。

また、古物店ものとして見ても、謎解きや事件より、「買う/売る」の背後にある感情の整理に重きを置いているのが特徴だと思います。断捨離やミニマリズムの文脈とは逆で、「ものを減らす」より「ものとの関係を丁寧にする」方向へ読者を連れていく。そこが好みでした。

こんな人におすすめ

最近、身の回りのものを雑に扱ってしまっている気がする人におすすめです。忙しいと、道具はただの消耗品になってしまう。でも、道具に残るのは“時間”なんですよね。本作は、ものを大切にすることを説教ではなく物語で思い出させてくれます。

あとは、ホラーが苦手だけど不思議な話は好き、という人にも。怖さより温かさが勝つので、安心して“あやかし側”の世界に入れます。

感想

読んでいて一番好きだったのは、「手放す=忘れる」じゃない、という感覚が貫かれているところです。大切にしていたものを売ることは、薄情に見えるかもしれない。でも、事情が変わったり、生活が変わったり、持ち続けられなくなることもある。そのとき、無理に抱え込むのではなく、次の持ち主へ橋渡しする。その行為を、優しく肯定してくれるのがこの物語です。

それに、“品物が持ち主を選ぶ”という設定は、すごく救いがあります。手放す側にとっても、受け取る側にとっても、偶然ではなく縁として始まるから。だから読後に残るのは喪失感より、「ちゃんと次につながった」という安心感なんですよね。

箱根強羅という舞台も、物語の優しさを底上げしていると感じました。温泉街の、少しのんびりした時間の流れが、登場人物たちの気持ちを急がせない。悩んでもいいし、迷ってもいいし、すぐに答えが出なくてもいい。そんな空気があるから、古物店で起こる出来事が“救い”として成立するんだと思います。

付喪神の話はファンタジーですが、読んでいると現実の「手放し」の場面が思い浮かびます。引っ越し、実家の片づけ、別れ、生活の変化。ものを処分するのは、過去を切り捨てることのようで辛い。でも本作は、ものに宿るのは執着だけではなく、感謝や、見守りのような気持ちでもあると示します。だからこそ、手放すことが“終わり”ではなく“橋渡し”に見えてくるんですよね。

読み終えたあと、部屋の中のマグカップやペンや靴を、少し丁寧に扱いたくなりました。道具に心が宿るかどうかは分からない。でも、道具に時間が宿るのは確か。そういう当たり前を、ふっと思い出させてくれる、優しい一冊でした。

本の虫達

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