レビュー
概要
『【新版】財務3表一体理解法』は、PL(損益計算書)・BS(貸借対照表)・CF(キャッシュ・フロー計算書)を「別々の表」ではなく、同じ事業の一つの物語として理解するための入門書です。
財務の学びがつまずきやすい理由は、用語が難しいからではなく、3表が頭の中でつながっていないからだと感じます。PLは読めるのに、BSが突然“暗号”になる。CFはさらに別世界に見える。その状態だと、会計知識が増えても意思決定に使えません。
本書は、数字の丸暗記ではなく「起きた取引を3表にどう反映させるか」という変換ルールを、繰り返しの型として身につけさせてくれます。財務を“理解した気になる”ではなく、“説明できる”状態に近づける一冊です。
読みどころ
1) 3表をつなぐ「橋」を先に作る
本書の強みは、PL・BS・CFのどれを先に覚えるかではなく、3表がつながるルートを最初に見せることです。たとえば「売上が増える」と何が起きるのかを、利益だけでなく、運転資本(売掛金や在庫)やキャッシュの増減まで追いかけます。
これを一度でも“線”で理解すると、財務の学習効率は一気に上がります。なぜなら、個別論点が「点」ではなく「線」に乗るからです。
2) 「利益」と「キャッシュ」のズレを言語化できる
現場の混乱の多くは、「黒字なのにお金がない」「売上はあるのに資金繰りが苦しい」といったズレから始まります。本書はそのズレを、売掛金・在庫・前払費用・減価償却など、ズレの発生源に落とし込みます。
“ズレが出るのは当たり前。どこでズレるかを特定できるか”という視点を持てると、財務は怖くなくなります。
3) 実務の判断に使うところまで降りてくる
理屈を理解しても、意思決定に使えなければ意味がありません。本書は「投資」「値下げ」「在庫を持つ」「回収サイトを伸ばす」など、現場で起きる判断を、3表でどう評価するかの視点をくれます。
財務は“正しい答え”より、判断の精度を上げるためのレンズです。その入口としてちょうど良い距離感です。
類書との比較
簿記の教材は、仕訳の正確さを鍛えることに強い一方で、「財務三表の意味」や「経営判断」との距離が空きがちです。反対に、MBA系の財務本は意思決定の話が強いですが、前提の会計が薄くて初心者は置いていかれやすい。
本書はその中間で、仕訳の細部に沈みすぎず、経営の抽象論にも飛びすぎない。**“理解→説明→判断”**の順番が踏める点が使いやすいです。
こんな人におすすめ
- 財務諸表を読めと言われたが、PL以外が苦手な人
- 黒字倒産・資金繰りの話が腑に落ちていない人
- 事業のKPIを追っているが、財務への着地が弱い人
- 経営会議や投資判断で、数字の議論についていきたい人
具体的な活用法(理解を“自分の武器”にする)
本書の良さは、読むだけでなく手を動かすときに出ます。おすすめは次のやり方です。
- 身近な取引を3つ選ぶ(例:広告を打つ/在庫を積む/設備を買う)
- 「PL・BS・CFに何が起きるか」を紙に書く
- ズレが出たら、運転資本・減価償却・前払/未払で説明する
- 最後に“意思決定の結論”を1行で書く(例:回収サイトを短くする交渉が優先)
ここまでやると、財務は知識ではなく、判断の筋肉になります。
取引を3表に落とすミニ練習(例)
理解を固めるには、同じ型で何度か練習するのが効きます。たとえば次の3つは、現場で頻出です。
- 値下げして販売数量が増えた:PLは売上と粗利が動く。BSは売掛金や在庫が動く可能性がある。CFは回収タイミング次第で“黒字でも資金繰りが苦しい”が起きる。
- 在庫を積んだ:PLはすぐには動かないが、BSで在庫が増える。CFは仕入支払いでキャッシュが減る。ここを見落とすと「利益は出ているのに苦しい」が説明できない。
- 設備投資をした:PLは減価償却で徐々に費用化される。BSは固定資産が増える。CFは投資CFでドンと出る。意思決定では“いつ回収できるか”が核心になる。
このレベルの話を自分の言葉で説明できるようになると、数字が“読める”から“使える”に変わります。
感想
この本を読んで一番良かったのは、「3表は、全部つなげて一気に理解していい」と腹落ちしたことです。以前は、PLを覚え、BSを覚え、CFを覚え……と階段を上がる感覚でした。でも実際には、3表は同時に動きます。同時に動くものは、同時に捉えた方が速い。
そしてもう一つ。「財務を理解する」とは、数字を暗記することではなく、数字が動く理由を説明できることだと再定義できました。利益が伸びたのにキャッシュが減ったなら、何が増えたのか(売掛か在庫か前払か)。その説明ができるだけで、会議の会話が変わります。
財務が苦手な人ほど、「全部わかる」より先に、「よくある場面を3表で説明できる」を目標にすると伸びます。本書は、その最短ルートを用意してくれる一冊でした。