レビュー
概要
『星の王子さま』は、サハラ砂漠に不時着した飛行士が、不思議な少年(王子さま)と出会い、対話を重ねる物語です。短いけれど、読後に残るものは長い。子ども向けの寓話としても、大人向けの哲学としても読める作品で、「読む年齢によって刺さる場所が変わる本」の代表格だと思います。
この岩波文庫版は、長く読み継がれてきた内藤濯訳。言葉が古びにくく、王子さまの純粋さが“甘さ”ではなく“厳しさ”として伝わってくるところが良いです。
読みどころ
1) 「大切なもの」が、説明ではなく体験として残る
この本は、人生訓を説教しません。王子さまの旅と対話を通して、読者の中に問いが残ります。
目に見える成果を追い続けるうちに、いつの間にか失っているもの。忙しさの中で雑に扱ってしまうもの。そうしたものが、物語の形で立ち上がります。
2) 大人の世界の“滑稽さ”が、笑えないほどリアル
王子さまが出会う大人たちは、単なる風刺ではなく、現代にもそのままいるタイプの人たちです。数字だけを見る人、肩書きにしがみつく人、支配したがる人。
ここが刺さるのは、読者自身がその世界に巻き込まれているからです。笑えるのに、笑い切れない。だから読み終えると、生活を少しだけ丁寧にしたくなります。
3) 「関係を結ぶこと」の重さを、静かに教える
この作品の中心は、恋愛でも友情でもなく、「関係を結ぶ」という行為そのものだと思います。
関係を結ぶと、時間が必要になり、責任が生まれます。面倒も増える。だから多くの人は、関係を浅く保とうとする。でも浅い関係のままだと、世界は薄くなる。
王子さまの物語は、その矛盾を、優しい言葉で突きつけます。
類書との比較
短い寓話で人生の意味を語る本は多いですが、『星の王子さま』は“答え”より“問い”を残すところが違います。読者に「こうしなさい」と言わないのに、読み終えると行動が少し変わる。
また、感動に寄りすぎず、どこか乾いた孤独が残るのも特徴です。癒しの本というより、気持ちを整える本。だから、疲れているときに読むと効きます。
こんな人におすすめ
- 忙しさの中で、心の余裕が消えていると感じる人
- 何かを達成しても満たされない感覚がある人
- 子どもの頃に読んだが、今の自分で読み返したい人
- 短い時間で読めて、長く残る本を探している人
感想
この本を読み終えると、「やることが増えすぎた」ときに何を削るべきかが見えてきます。予定やタスクというより、態度の話です。急がない、雑にしない、目の前の人を“ただの役割”として扱わない。
私はこの作品を、「優しい本」だと思う一方で、かなり厳しい本でもあると思っています。王子さまは純粋だからこそ、大人の言い訳をごまかしてくれません。自分が大切にしているつもりのものが、実は大切にできていないことがバレる。
だからこそ、読み返す価値がある。読んだ直後に泣けるかどうかより、数日後に、誰かへの態度が少し変わっているかどうか。そこにこの本の力があります。
短い本ですが、秋の夜に読むと、静かな余韻が残ります。読書の秋の「1冊目」に、とても強い作品です。
読み返すと刺さるポイント
子どもの頃に読むと「不思議で優しい話」として残りやすい一方、大人になって読むと、王子さまの言葉は“優しさ”というより“容赦のなさ”として刺さります。
たとえば、忙しさを理由に誰かとの時間を後回しにしているとき。成果の数字だけで自分を評価しているとき。そういう瞬間に読むと、「自分が何を失っているのか」が静かに見えてきます。
この本の“効き方”は、感動より調整
私はこの本を、泣くための本というより「生活の向きを少し直す本」だと感じています。
- 何を急ぎすぎているか
- 何を雑に扱っているか
- どんな関係を深くしたいか
読み終えたあとに、この3つのうち1つだけでも考えられたら十分です。短いのに、そういう余白を作ってくれる。だから定期的に読み返したくなります。
読後におすすめの小さな実践
この本は、読み終えた瞬間に何かが劇的に変わるというより、数日かけて“効いてくる”タイプです。そこでおすすめは、読後に次のどれかを1つだけやってみることです。
- 大切にしたい人に、短い連絡をする(近況でも、感謝でも)
- 予定を1つ減らして、30分だけ何もしない時間を作る
- 「今週、大切にすること」を1行で書く
本の言葉を覚えるより、生活の手触りを変える。『星の王子さま』は、その方向へ読者を押してくれる作品だと思います。
読み返すなら、1回目は物語として、2回目は「今の自分に刺さった一文」だけ付箋を貼りながら読むのがおすすめです。短い本なので、読み返すほど“今の自分”が見えます。