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レビュー

概要

『Spy x Family, Vol. 1』は、スパイが作った“偽装家族”が、なぜか本物みたいにあたたかくなっていくコメディ&アクションの第1巻です。凄腕スパイの黄昏(Twilight)は極秘任務のために「家族」を用意する必要があり、孤児院で娘役のアーニャ(Anya)を迎え、さらに妻役としてヨル(Yor)と契約結婚をします。

ここだけ聞くと嘘っぽい設定なのに、読んでいると自然に受け入れてしまうのが本作のすごさです。父はスパイ、母は暗殺者、娘は心を読める超能力者。全員が秘密を抱えたまま同じ食卓に座っていて、そのズレが笑いになり、同時にちょっとした優しさになっていきます。

読みどころ

いちばんの見どころは、アーニャの存在です。大人の都合で作られた家族のはずなのに、アーニャが“子どもとしての欲しいもの”をぶつけてくることで、関係が現実になります。可愛いだけじゃなく、ちょっと図太いし、ちょっと賢い。そのバランスが絶妙で、彼女のリアクションだけで場面が転がっていく。

そして、黄昏とヨルがそれぞれ「普通の家庭」を知らないことも効いてきます。仕事は超一流なのに、家族の当たり前が分からない。だから頑張り方がズレていて、それが笑える。でも、そのズレがあるからこそ、ふとした瞬間に出る不器用な優しさが沁みます。

本の具体的な内容

第1巻では、黄昏が任務のために家族を揃え、アーニャを名門校の面接へ連れていく流れが軸になります。スパイらしい準備と観察眼が発揮される一方で、家庭イベント特有の“予測不能”に翻弄されるのが面白いところです。

この「任務=学校」が絶妙で、スパイものの緊張感と、子育て・学校行事のドタバタが同じレールに乗ります。しかもアーニャは心が読めるので、大人の建前や嘘が全部まる見え。読者が知っている情報量と、登場人物が知っている情報量がズレ続けることで、笑いが生まれます。秘密が多いのに暗くならないのは、アーニャの“子どもの直球”が、空気を明るく壊してくれるからだと思いました。

また、ヨルの側にも事情があり、結婚が必要になる。利害一致で始まった関係なのに、周囲の目や社交の場で「夫婦らしさ」を演じる必要が出てきて、嘘が嘘を呼ぶ。でも、その嘘の中でお互いを少しずつ理解していく感じが、軽いのにちゃんと温度があります。

英語版でもテンポが落ちにくいのは、ギャグの組み立てが状況コメディとして強いからだと思います。固有名詞が多くなく、会話のリズムも分かりやすいので、漫画を英語で読んでみたい人にも向きやすい第1巻です。

類書との比較

偽装家族ものは、恋愛かシリアスに寄りやすい印象がありますが、本作はその間を気持ちよく走ります。スパイの緊張感はあるのに重くなりすぎず、日常の可愛さがあるのに甘すぎない。バランス感覚がかなり巧いです。

また、家族の誰か一人が万能で問題を解決するのではなく、三人それぞれの“欠け”が物語を動かします。黄昏の合理性、ヨルの世間知らずさ、アーニャの感情の直球。欠けが噛み合うことで関係が育つのが、この作品の面白さだと思います。

「能力があるのに普通ができない」キャラクターって、放っておくと鼻につくこともあります。でもこの作品は、三人全員がどこか不器用で、しかもその不器用さが笑いになるように設計されています。だから、誰かを見下ろす気持ちにならずに読める。コメディの優しさが、ちゃんと作品の倫理として機能しているのが好きです。

こんな人におすすめ

  • 軽く笑えて、でも心があたたまる作品を読みたい人
  • スパイもののスリルと日常コメディの両方が好きな人
  • 1巻からテンポよくハマれる漫画を探している人
  • 英語で読める、会話中心の漫画に挑戦したい人

感想

第1巻を読み終えると、「この家族、最初は嘘だったのに、嘘のままでも大事なものが生まれるんだ」と思わされます。黄昏は任務のために家族を作ったのに、アーニャの反応に振り回されて、ヨルの優しさに助けられて、少しずつ“任務じゃない感情”が混ざっていく。ここが本作のいちばんの魅力です。

個人的に好きなのは、黄昏が完璧に見えて、実は家庭に関しては不器用なところ。最適解を選び続けてきた人が、最適解のない場所(家族)に立たされると、急に人間味が出る。その人間味が、アーニャの無邪気さとぶつかって、笑いになるし、ちょっと泣ける瞬間にもなる。

ヨルも同じで、戦闘力は高いのに、生活の中では緊張しっぱなしです。「普通の妻」を演じようとして空回りする姿が可愛いし、その空回りが誰かを守る方向にも働く。嘘の役割を演じるはずが、演じるうちに本心が混ざっていく。第1巻は、その“混ざり始め”がいちばんおいしいところだと思います。

第1巻は“家族が揃う”までの導入なのに、もう十分に満足感があります。ここから先、この嘘の家族がどこまで本物になっていくのか。続きが気になって仕方ない、最高のスタートでした。

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