レビュー
概要
『H2(1)』は、恋とスポーツの両方を「青春」として描く物語です。紹介文では、比呂(ひろ)、英雄(ひでお)、ひかり、春華(はるか)の4人の名前が挙がり、それぞれの青春が熱く輝くとされています。大好評のバックアップ「青春」ストーリー、という言い方からも、まっすぐな温度感が伝わってきます。
あだち充作品は、派手なセリフで盛り上げるより、間や視線で気持ちを見せるのが上手いです。1巻は、物語の空気が決まる巻です。4人の距離感がどう動くのかを、まずは呼吸のように掴めるのが面白さになります。
読みどころ
1) 4人の名前が最初に出る時点で「関係の物語」だと分かる
スポーツ漫画は、主人公の才能や試合の勝敗から入ることが多いです。一方で紹介文は、最初に人物名を並べます。ここから、スポーツの勝ち負けだけではなく、関係性が物語の中心になることが分かります。
恋とスポーツは、どちらも感情の振れ幅が大きいです。だからこそ、近い人ほど傷つく。近い人ほど誤解する。1巻からその匂いがあり、読み始める動機になります。
2) 「熱い」のに、押しつけがましくない
紹介文は「青春が熱く輝く」と書きます。ただ、あだち作品の熱さは、叫ぶ熱さというより、静かに燃える熱さです。読者は「泣けと言われた」より、「気づいたら苦しくなっていた」のほうが刺さります。
このタイプの熱さは、読み返すほど効きます。最初はスポーツの空気として読んでいた場面が、後から恋の場面として見えてくる。1巻はその土台を作る巻です。
3) 余白があるから、読む側の気持ちが入り込める
説明の多い物語は、理解しやすい代わりに、感情は追いつきにくいことがあります。あだち作品は、余白がある分だけ、読者の側に想像のスペースが残ります。
「この言葉の裏は何だろう」「この間は何を言えなかったのだろう」と考える時間が生まれると、登場人物が身近になります。青春の物語は、この身近さがあるほど強いです。
スポーツが「関係の試験紙」になる
スポーツの場は、努力が見えやすいです。勝ち負けも分かりやすいです。だから、気持ちの曖昧さが浮き彫りになります。何を言えなかったのか。誰に認められたいのか。誰の目が怖いのか。
『H2』は、そういう曖昧さを、競技の時間の中へ置きます。恋愛だけだと感情が過剰になりやすいですし、スポーツだけだと感情が置き去りになりやすいです。両方が並走すると、感情が現実の速度で動きます。1巻はその並走の感触を掴む巻になります。
1巻の読み方
この巻は、まず4人の名前と、空気の温度を覚える読み方が合います。細かい設定を暗記しなくても、誰が誰を見ているか、誰が誰に引っかかっているかが、少しずつ見えてきます。
スポーツは努力の物語で、恋は選ばれる物語になりがちです。けれど青春は、そのどちらでも割り切れません。努力しても届かないことがあるし、選ばれても不安は残ります。『H2』は、その割り切れなさを、物語の推進力にしていきます。
1巻で「好きなテンポ」かどうかが分かる
あだち作品は、盛り上がりを説明で作りません。気づいたら、胸の奥がざわついている。そういうテンポです。だから1巻を読んで、「この間が心地いい」と感じた人は、きっと続きも楽しめます。
逆に、早い結論や派手な展開が欲しい人は、物足りなく感じるかもしれません。ただ、その物足りなさは、後から効いてきます。余白があるほど、読者の中で感情が育つからです。
4人の名前を覚えるだけで、読み味が変わる
紹介文に挙がる4人は、比呂、英雄、ひかり、春華です。作品の中では、誰が誰の背中を押しているのかが、はっきり言葉にならないまま進む場面があります。
そのときに、名前を覚えておくと「いま視線が向いている先」が追いやすくなります。あだち作品は、視線の向きで恋が見えます。1巻は、その見え方に慣れる入口でもあります。
また、スポーツの話は勢いで読めますが、恋の話は置いていかれると戻りにくいです。分からない場面があっても、一度立ち止まって、誰の気持ちが揺れているかだけ拾う。そうすると、この作品の温度が掴みやすいです。
類書との比較
- 試合の戦術や練習メニューを細かく描くスポーツ漫画は、競技理解が深まる一方で、感情の描写が後回しになることがあります。本作は、人物関係の温度が先に立つタイプです。
- 恋愛漫画は、恋の進展が主役になりやすいです。本作はスポーツの時間も並走するため、感情の揺れが「生活の一部」として描かれます。
- 青春群像劇は、登場人物が多いほど散らかりやすいです。本作は紹介文の段階で4人に焦点が絞られていて、関係の変化を追いやすいです。
こんな人におすすめ
- スポーツの勝ち負けだけではなく、気持ちの揺れも一緒に味わいたい人
- 余白のある描写で、じわじわ刺さる青春漫画が好きな人
- 恋と努力のどちらも、単純に割り切れない物語を読みたい人