レビュー
『サイコメトラーEIJI 愛蔵版 1』は、「触れると過去の記憶の断片が見える」という能力を軸にした推理サスペンスです。主人公EIJI(高校2年生)は、物や人に触れると、そこに残った記憶の断片を読み取れます。能力を知った美人刑事・志摩亮子は、凶悪犯罪者“メビウス”の捜査協力を依頼します。最初は乗り気になりません。けれど知り合いが殺されたことをきっかけに本気で犯人を追い始めます。紹介文の時点で、導入のフックは十分です。
この1巻の面白さは、能力が万能の魔法として扱われないところにあります。見えるのは「断片」であり、断片は真相そのものではありません。断片をどうつなぐかは人間側の仕事になる。だから推理が成立します。能力ものが苦手な人でも、「情報が増えるだけで、判断は難しくなる」という構造なら入りやすいと思います。
さらに、作者名の文脈も刺激的です。紹介文は「金田一少年の事件簿」の原作者が別ペンネームで執筆した異色推理サスペンス、と書いています。シリーズ累計発行部数1200万部、2度のTVドラマ化という実績も添えられており、長く読まれてきた理由がある作品だと分かります。
1巻の導入が良いのは、能力の設定だけでなく、能力が社会と接続するルートが最初から用意されている点です。志摩亮子という刑事が入り、捜査の枠組みの中でEIJIが動く。能力者の物語にありがちな「一人で暴いて終わり」になりにくく、事件の重みが残りやすい。しかも、EIJIは最初から正義の味方でもありません。乗り気ではない。そこから身近な被害でスイッチが入る。動機が段階的で、読者が置いていかれません。
また、サイコメトリー能力は、読者にとっての“映像化装置”にもなります。触れた瞬間に、過去の断片が見える。この演出は、漫画の強みと相性がいい。証言や供述より、視覚として断片が提示されるので、読む側も推理へ参加しやすいです。断片が足りないぶん、想像が働く。その余白が、サスペンスの熱を上げます。
具体的な内容への言及:能力が“事件の入口”になる
サイコメトリー能力は、事件の証拠を直接“提示する”のではなく、入口を作る役割を担います。触れたことで見えるのは、過去の記憶の断片。断片が見えたからといって、犯人が確定するわけではありません。むしろ、断片が曖昧だからこそ、推理の余地が生まれます。
志摩亮子が捜査協力を依頼する構図も効いています。能力者が一人で暴走するのではなく、刑事という現実の制度の側が絡む。すると、能力が“正義のご都合装置”になりにくい。EIJIが乗り気ではないところから始まり、身近な被害が引き金になる流れも、動機として納得しやすいです。
さらに、この作品は“能力の倫理”にも触れやすい設定です。触れれば過去が見えるということは、本人が隠したい記憶にも触れてしまう可能性がある。能力が正しいことのために使われたとしても、覗き見に近い暴力性を帯びます。1巻の時点では、まず事件の牽引力が前に出ますが、設定としてこの重さを含んでいるところが、単なる超能力バトルと違います。
類書比較:本格ミステリより「断片の推理」に寄せた快感
推理の類書には、アリバイや密室のロジックを詰める本格ミステリがあります。そこは頭の体操として強い一方で、読者を選ぶこともあります。
本作は、能力によって得られる“断片”を、現実の捜査へ落とし込むタイプです。謎解きの快感は、論理の積み上げだけではなく、「見えた断片が何を意味するか」を読み解くところにあります。超常要素がある分、物語のスピードも出やすい。重い理屈より、事件の温度で引っ張るサスペンスが好きな人に向きます。
能力ものの類書には、能力が万能に働きすぎて、推理が作業になる作品もあります。本作は「断片」しか見えないことが前提なので、推理が残る。さらに、刑事の捜査という現実の段取りがあるので、事件が“社会の出来事”として描かれます。派手さより、事件の不気味さと現実感を両立しているところが、本作の立ち位置だと感じます。
紹介文が2度のTVドラマ化と書くのも納得です。能力のフックが強く、事件の入口が分かりやすい。しかも断片しか見えないので、映像で見ても謎が残る。サスペンスとしての見せ場を作りやすい構造です。原作で読むと、テンポの速さと、断片から推理へつなぐ気持ちよさがよりはっきり出ます。
そして、EIJIが高校生という設定も効きます。未熟さと勢いがあり、事件に踏み込む危うさもある。そこへ刑事が絡むことで、熱と現実のバランスが取れる。能力だけではなく、登場人物の立場が違うから、サスペンスの緊張が続きます。
こんな人におすすめ
- 能力ものと推理の組み合わせが好きな人
- 証拠の断片から真相へ近づくサスペンスを読みたい人
- ドラマ化された作品を、原作のテンポで追い直したい人
能力があるから簡単に解ける話ではなく、能力があるから“入口が開く”話です。その入口から先をどう詰めるかが面白い。1巻はその構造を、勢いよく立ち上げるスタートになっています。