レビュー
概要
“ひとりで生きる”を肯定する揺るぎない視座を備えた小玉ユキの新作。ホテルを舞台にした群像劇で、主人公・月島楓は自立した女性でありながらも、誰かの目を気にして“ひとり”を演じてきた。ある日楓は小さな新宿のデザインホテルを受け継ぐことを決意し、ホテルのスタッフや客たちと交差する人生の瞬間に“孤独”と“独立”の差分を感じながら、自分のホテルを“居場所”として再解釈していく。
内容とポイント
第1巻は、楓がホテルの建物を引き継ぐところから始まり、客室の改装やスタッフとの関係づくり、さらには元恋人との再会といった構造的な葛藤が描かれる。主人公は“自分のための空間”を設計しながら、ゲストのトラウマと持ち味を照らし合わせる。第3話では、高齢のゲストが過去のパートナーとの記憶を部屋に残したまま立ち去るエピソードが登場し、楓が“記憶を預かるホテル”という役割を問い直す。それぞれの部屋を“生活の断片”と見立て、楓は心理的距離を測ることを学ぶ。
心理的・経済的リアリズム
本作では、“ひとり”を選んだ人々の視点だけでなく、ホテルの経営という現実的な制約が常に絡む。キャッシュフローの危機とスタッフの離職危機が並列し、楓は電話応対で“ひとり”に戻りながらも経営判断を迫られる。これらは、現代の“独立系ワーカー”が直面するジレンマと一致し、特にフリーランスの自己管理や“契約ベースの人間関係”が注目されている研究(DOI:10.1177/09500170211025489)が示す境界の曖昧さと共鳴する。小玉のドローイングは繊細だが確実に緊張感をはらみ、経済的判断と心の距離を両方描くスタイルは、現代都市における“ひとり暮らし”のリアルを凝縮している。
類書との比較
ホテルを舞台にした作品では、いくえみ綾の『すべての恋は片想いからはじまる』が男女の関係性を主軸にするのに対し、本作は“ホテル=個人の記憶を支える場”というメタファを通じて、無意識的な“見られ方”を問い直す。海外の文学では、パトリシア・ハイスミスの『リプリー』が他者との境界線を精緻に描いたが、『おひとりさまホテル』は経済的リアリズムと心理的リアリズムを併走させることで、自立とつながりの間を柔らかく揺らす点で異なる。