レビュー
概要
荒廃した未来都市ザレムとその下層に広がる鉄屑の都市バルジの間に立ちふさがる、格差と暴力が充満したSF世界。主人公の少女ガリィ(後のアリータ)は、死体の山からサイボーグの上半身だけを拾われ、医師であるイド博士に頭部と心臓以外の体を再生される。記憶は失われているが、身体には底知れない戦闘能力と直感が眠っていた。バルジの英雄として知られるハンター・ウォリアーとしてのチームに加わったガリィは、倒錯した娯楽・バウトに身を投じながら、自分が誰であったか、そしてその力がどこから来ているのかを明らかにしようとする。人間と機械の境界を問う哲学性と、バイオレンスを厭わない鮮烈な描写が共存する第一巻は、ピンチの度にガリィの中に眠る過去の記憶の断片が浮かび上がるような構造で、読者の期待を高め続ける。
読みどころ
- ガリィが初めて戦う際の動きは、細部まで計算され尽くしたメカニックな描写。彼女の脳に眠る「戦闘データ」が次第に呼び覚まされ、まるで観客としてアクションシーンの空気を吸い込んでいるかのような臨場感がある。
- バルジの住人たちの生活描写、人間の身体を補強する義体の需要とそれにともなう搾取が、単なるアクションを超えた社会的な深みを生む。飢え、娯楽、希望が入り混じる下町で、平凡な道具職人やパーツ泥棒が一瞬の光を見出す姿が背景を厚くする。
- 作中のギャグや緩い会話、イド博士とガリィの師弟関係が、残虐な未来都市の陰影を柔らかく受け止め、キャラクターに人間味を与えている。丁寧に置かれたエピソードの前後で一気に激しい戦闘が走るため、読む側も呼吸を整えながら感情移入できる。
- 絵柄の陰影や効果線の使い方が、メカを描く硬さと人間の肉感の両立に寄与しており、数コマの間隔で一気に視覚的な緊張を高める。1巻だけでじゅうぶんトリップ感がある。
類書との比較
金属的なボディと人間性の融合を主題に据えた物語としては『攻殻機動隊』に通じるのだが、本作はむしろ肉体そのものの再利用とエネルギーに焦点を当てている。そのため、『BLAME!』や『ダーリン・イン・ザ・フランキス』的な機械のアート性を覚える一方で、『アキラ』に見られる都市の崩壊と暴走するシステムへの警戒心も併せ持つ。そこに加えて、主人公が格闘技のリングで自らの存在を問うという点では中国武侠小説のリアルな身体感覚にも似ていて、ただのSFバイオレンスに終わらない複合性を持っている。
こんな人におすすめ
海外SFやSF映画的な世界観と、バトルのスピード感を同時に味わいたい人にふさわしい。人間の魂と機械の機能の両方が値段付きで取引される物語に惹かれる人、そしてヒロインが自分の道筋を切り開いていく姿をわかりやすく目撃したい人にとって、1巻の各話が織りなすテンポは貴重な体験となるだろう。
感想
初めて読み終えたときに感じたのは、肉体の描写にここまで「愛」があるかという驚きだった。廃棄された義体パーツを丁寧につなぎ合わせるという行為が、単なる再生ではなく「生き直し」として描かれている。電脳的な設定がありながらも、ガリィの表情や体の揺れが人間の情感を牽引し、読者を惹き込む。いわゆる「強さ」に伴う悲哀と、生き残るためには身体の限界を知る必要があるという醒めた視点が、今でも色あせずに胸を突く。その感覚は、後のシリーズを遡って読むときにもこの1巻で受けた衝撃が原点だと再確認できる。