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レビュー

概要

『予告犯』1巻は、新聞紙をかぶった男たちがインターネットへ犯行予告動画を投稿し、法では裁きにくい相手へ私的な制裁を加えていく社会派サスペンスです。刺激の強い題材ですが、読んでみると単なる炎上型の復讐劇ではなく、「正義が届かない場所に何が生まれるのか」をかなり冷静に見つめた作品だとわかります。

犯行グループは過激で、やっていることは明確に犯罪です。それでも、標的にされる相手がネット社会の隙間で他人を踏みつけてきた人間であるため、読者は簡単に割り切れません。この「許されないが、痛快でもある」という危うい感情を最初の1巻で成立させているのが、本作のいちばん強いところです。

読みどころ

最大の読みどころは、動画投稿から世論が動くまでの描き方です。犯行そのものだけでなく、誰がどう拡散し、何に怒り、どんなふうに便乗するのかが丁寧に描かれます。つまり『予告犯』は犯人の話であると同時に、それを消費する社会の話でもあります。ネットの匿名性と集団心理をここまでエンタメとして読ませる漫画はやはり珍しいです。

新聞紙をかぶったリーダー「シンブンシ」の存在感も圧倒的です。見た目の異様さはもちろんですが、彼は単なる快楽犯ではありません。狙う相手や行動にある種の筋を通そうとします。その理屈が完全に正しいわけではないからこそ不気味で、同時に引き込まれます。カリスマ性と危うさを両立させた導入としてかなり強いです。

警察側の視点がしっかり機能しているのも大きいです。犯人グループだけを追うと読者の感情が偏りやすいところを、捜査側の論理や限界をきちんと見せることで、物語に厚みが出ます。法を使う側にもルールがあり、世論を背負う側にもプレッシャーがある。そのため本作は、単純な勧善懲悪ではなく、どちらに立っても息苦しい構造として読めます。

また、1巻の時点で格差や非正規雇用、ネットリンチ、自己責任論といったテーマがかなり濃く入っています。説教くさくまとめるのではなく、人物の背景や標的の選び方に染み込ませているので、自然に社会の歪みが見えてきます。短い巻数で終わる作品ですが、扱っている問いはかなり重いです。

類書との比較

犯罪サスペンスには犯人当てやどんでん返しを中心に読ませる作品も多いですが、『予告犯』はもっと現在進行形の社会そのものへ寄っています。謎を解く面白さより、「この怒りはどこから来るのか」「自分ならどこで線を引くのか」を突きつける面白さが強い。そのため、読後には犯行の手口よりも、自分の倫理観の揺れが残ります。

また、ハッカーものや義賊ものと比べても、本作はかっこよさに酔いすぎません。犯人側にもみじめさや切実さがあり、行動には正義だけでなく行き場のなさがにじみます。だからこそ、社会批評として読んでも強いです。人物ドラマとしても十分に成立しています。

こんな人におすすめ

  • ネット社会を題材にしたサスペンスが好きな人
  • 正義と私刑の境界が揺れる物語を読みたい人
  • 短巻数でも密度の高い完結作を探している人
  • 社会問題をエンタメとして読ませる漫画に惹かれる人

感想

この1巻を読むと、読者の中にある「たしかに腹は立つ」という感情まで作品が利用してくるのがわかります。だから怖いし、おもしろい。自分は私刑に賛成しないと思っていても、標的の振る舞いを見ると拍手したくなる瞬間がある。その危うさを読者自身に自覚させるところが、本作の鋭さです。

印象に残るのは、ネットが単なる道具ではなく、怒りを増幅し、他人事を娯楽に変える場として描かれていることです。犯人グループだけでなく、視聴者や拡散する人々まで含めて事件ができていく。この視点があるので、古くなりにくいどころか、今読むほうがむしろ生々しく感じる部分もあります。

全3巻で読み切れる作品としても非常に優秀です。導入の時点で問題意識が明確で、しかも説教臭くない。現代社会に対するモヤモヤを抱えている人ほど、一気に引き込まれる1巻だと思います。

ネット社会の作品は数あれど、怒りがどう拡散されるかまでここまで冷静に描く漫画はそう多くありません。短くても後味が強く残るシリーズです。

読後に「自分ならどこまで拍手してしまうか」を考えさせられるので、単なるスリル以上のものがきちんと残ります。

しかも、犯人側を単純に英雄扱いしないため、読者はずっと居心地の悪さを抱えたまま読み進めることになります。この感情の揺さぶりが、本作をただの話題先行サスペンスで終わらせていません。

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    佐々木 健太

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