レビュー

概要

『PSYREN―サイレン― 1』は、現代日本と荒廃した未来の日本を行き来する謎のゲーム「PSYЯEN(サイレン)」に巻き込まれた少年・夜科アゲハが、幼馴染の雨宮桜子らと共に、ゲームの謎と世界崩壊の理由に迫っていくSFサスペンスです。第1巻の入口は「赤いテレホンカード」という、やけに具体的で手触りのあるアイテムから始まります。しかも舞台は2008年6月某日。日時まで固定されているのが、都市伝説のリアルさを上げてきます。

アゲハは「PSYЯEN」と書かれた赤いテレホンカードを手に入れた直後、カードで謎の世界・サイレンへ行けるという噂と、桜子の失踪が繋がっていることを知ります。失踪事件は全国規模で起きており、通称「神隠し」。誰が、何のために人を消しているのか。第1巻は、ミステリーの問いを立てるのが早く、読者を置き去りにしないテンポで“危険なゲーム”へ引きずり込みます。

第1巻の読みどころ

1) 都市伝説の形をした“強制参加型ゲーム”

サイレンの恐ろしさは、参加が任意に見えて任意ではない点です。ゲーム開始前、赤いテレホンカードを通じて、参加者(サイレンドリフト)にだけ聞こえる「ベル」が鳴る。受話器を取らなければ音はどんどん大きくなり、廃人になりたくなければ参加するしかない。このルールが、都市伝説のワクワクを一瞬で監禁の恐怖に変えます。

「試したら最後」という感覚があるので、アゲハが受話器を取る決断の重みも出る。第1巻はここが上手く、読者も一緒に「戻れない線」を越えた気分になります。

2) ネメシスQという“顔のない運営”の不気味さ

サイレンの都市伝説には、怪人ネメシスQが登場します。赤いテレホンカードを持つ者を楽園へ導く、という触れ込み。ところが実態は、情報を漏らそうとする参加者を抹殺するなど、運営側がかなり暴力的です。

第1巻は、運営が何者か分からないまま、ルールだけが先に牙をむく。ゲームの目的は「世界を破壊した犯人と手段を知ること」だと示されますが、その情報がなぜ必要で、誰が得をするのかはまだ曖昧。この“目的の不透明さ”が、不気味さとして残ります。

3) アゲハの動機が「正義」ではなく「桜子」なのが強い

世界規模の失踪事件や崩壊した未来という材料があると、主人公は正義のために戦いがちです。でも第1巻のアゲハの動機はシンプルで、桜子を探すためにサイレンへ行く。個人的な理由だからこそ、感情が強く、読者もついていきやすい。

大きい話を扱いながら、入口は身近な関係に置く。第1巻はその設計が効いていて、SFの設定が難しく感じにくいです。

感想

第1巻は、サイレンのルール説明と、世界観の提示と、キャラクターの動機付けを、かなり短い距離でやり切っています。特に「赤いテレホンカード」と「ベル」という2つの仕掛けが、参加者をゲームに縛りつける構造として分かりやすい。だからこそ、設定が増えても読者は迷子になりません。

また、連載話数の単位が「CALL.」である点も含めて、作品全体が“通信”や“呼び出し”のイメージで統一されています。受話器を取る、呼び出される、呼び出され続ける。第1巻の時点で、サイレンが「ゲーム」以上に「強制力のある仕組み」だと理解できるのが良かったです。

謎が多いのに、置いていかれない。サスペンスとSFの導入として、かなり優秀な第1巻だと思います。

設定の細部が“怖さ”に直結している

第1巻で好感を持ったのは、サイレンが「ふわっとした異世界」ではなく、細部の条件で縛ってくるところです。たとえば、赤いテレホンカードは(偽物も含めて)ネットオークションなどで高額取引される、という設定が入っています。都市伝説が“噂話”から“金が動く対象”になった瞬間、現実感が増します。危険なものほど商品化される、という嫌なリアルさがある。

さらに霊能力者・天樹院エルモアが「サイレンの真実」に懸賞金をかけたことで、謎解きがブームになる。これも怖いです。神隠しが起きているのに、人は真相より先に「乗れるイベント」として消費してしまう。第1巻は、この世間の空気まで含めてサイレンの不気味さを作っています。

“運営”が情報統制するゲームの息苦しさ

ネメシスQが、未来の情報を漏らそうとするサイレンドリフトを抹殺する、というルールは、ゲームである以前に検閲です。参加者は未来に飛ばされ、命を懸けて生き延び、得た情報は外に出せない。つまり「参加しても報われない可能性」が最初からある。それでもベルに追い立てられれば参加するしかない。第1巻はここが残酷で、読み手に変な圧迫感を残します。

アゲハが桜子を探すためサイレンへ行く動機はまっすぐですが、そのまっすぐさが、運営の構造とぶつかった瞬間に折れそうだという予感があります。第1巻はその予感を、ルールの説明だけで作る。派手な見せ場より、仕組みで怖がらせてくるタイプのSFとして、かなり好みでした。

こんな人におすすめ

  • 都市伝説×ゲーム×タイムスリップの設定が好き
  • ルールが厳しいサバイバルものを読みたい
  • 大きな謎を、キャラの動機で追いたい

第1巻は導入でありながら、問いの立て方が明確です。「桜子はなぜ消えたのか」「サイレンは誰が動かしているのか」「未来はなぜ荒廃したのか」。この3点が揃うので、次巻以降の加速が楽しみになります。

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    佐々木 健太

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