レビュー

概要

『魔法陣グルグル 1巻』は、RPGの世界観を土台にしながら、物語の“お約束”を気持ちよく裏切っていく冒険ギャグです。舞台はジェムジャム大陸の小さな村・ジミナ村。ある日、「勇者募集! 魔王を倒した者に金5万R(リン)を与え、コーダイ国の王子とする」という立て札が立ち、勇者マニアの父・バドに育てられた少年ニケが、半ば強制的に旅へ出されます。

旅立ちのルールとして、ニケは“魔法オババ”のもとに立ち寄らなければならない。そこで出会うのが、ミグミグ族だけが使える魔法「グルグル」を操る魔法使い・ククリです。踊りながら魔法陣を描き、それが魔法になるという設定の時点で、もう勝ちが見えています。第1巻は、この二人が“勇者と魔法使い”という定番のペアになりつつ、定番通りには進まない面白さを、テンポ良く見せてくれます。

読みどころ

1) 勇者の始まりが「募集の立て札」なのが最高

勇者の使命が「選ばれし者」ではなく、募集要項で始まる。しかも報酬が具体的に「5万R」。この俗っぽさが、作品全体の空気を決めています。ニケも、崇高な使命感で動くタイプではなく、押し出されて旅立つ。そのズレが、ギャグとして効いてきます。

ただ、ふざけているだけではありません。押し出されても歩くしかないし、歩くなら前に進むしかない。第1巻は、その“やるしかない現実”を、笑いに変換するのが上手いです。

2) ククリの「グルグル」が、魔法であり感情表現になる

グルグルは単なる攻撃手段ではなく、ククリの感情や未熟さがそのまま出る仕組みになっています。踊り、描き、発動する。工程が多いから、成功も失敗も物語になる。魔法の発動が「演出」そのもので、読者は“魔法が出るかどうか”より、“どう出るか”を楽しめます。

魔法の設定が細かいのに、それを理屈で押し切らず、笑いに落とす。第1巻の時点で、世界観のルールが“ギャグの土台”として機能しています。

3) RPGのツッコミどころを、ツッコミとして描く

本作はRPGのパロディですが、単にネタを並べるのではなく、「プレイヤーが心の中で突っ込むポイント」を漫画の形にしています。勇者の扱い、旅のイベント、住人のテンション、魔王討伐のスケール感。そういう“ゲーム的な不自然さ”を笑いに変えるので、RPGを知らなくても読めるし、知っていると余計に刺さります。

感想

第1巻を読んで改めて感じたのは、この作品の笑いが「キャラの掛け算」でできていることです。ニケは勇者としては微妙に頼りないし、ククリは魔法使いとしてはまだ不安定。でも二人で動くと、急に物語が進む。そのテンポが気持ちいい。

また、冒険ものとしての“次へ進みたくなる設計”も強いです。世界征服を狙う魔王ギリを倒す、という大目標がありつつ、道中の小さな出来事がきちんと面白い。第1巻は、旅の始まりとして必要な情報(世界、目的、相棒、魔法の核)を、説明臭くならない形で全部渡してきます。

王道ファンタジーに乗りたいけど、重すぎるのは苦手な人にちょうどいい。笑いながらページをめくっているうちに、いつの間にか“この二人の旅を見届けたい”という気持ちが出来上がる、良い1巻です。

もうひとつ良いのは、ギャグが「設定から自然に生える」ことです。勇者募集の立て札を見つける父・バドのテンション、旅立ちの儀式として“魔法オババに会う”という謎ルール、そこでいきなり相棒を決められてしまうニケの受け身さ。ここまでの流れが、読者に“この世界はそういう世界だ”と納得させます。無茶な出来事なのに、ルールとして成立しているから笑える。

そしてククリの存在が、冒険の質を変えます。勇者ものの魔法使いは、賢くて頼れるケースが多い。でもククリは未熟で、グルグルが成功するかどうかも含めてイベントになる。だから「敵を倒す」より先に「どうやって進むか」「そもそも魔法は出るのか」が面白い。勝利のための最短ルートを外し、寄り道を“本編”にしてしまう発想が、1巻から完成しています。

RPGっぽい世界観なのに、戦略や数値で殴ってこないのも好きでした。勝ち筋はいつも少しズレていて、それでも前へ進む。だから読後に残るのは爽快感より、「また変なことが起きそう」という期待です。冒険の続きが気になる1巻として、かなり優秀です。

個人的に刺さったのは、「コーダイ国の王子にする」という報酬の雑さです。王子って職業じゃないのに、報酬のように渡される。こういう“世界のゆるさ”を最初に提示することで、読者はツッコミの視点を持ったまま冒険を楽しめます。王に勇者として認められる流れも、神秘的というより“手続き”っぽい温度で描かれるので、勇者ものの重さが抜けて読みやすい。

第1巻は、ニケとククリが組まされてから、旅のスタイルが決まるまでの助走でもあります。勇者としての肩書き、グルグルという魔法の核、魔王ギリという目的地。必要な看板を全部掲げたうえで、「さあ冒険だ!」と思った瞬間にズラす。このズラしが、次巻以降の“何が起きてもおかしくない”土台になります。長編の1巻として、仕込みが上手いです。

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    佐々木 健太

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