レビュー

概要

1960年代の長崎を舞台に、転校生・西見薫がジャズバンドに巻き込まれるところから物語が始まる。高校生たちが戦後の疎外感を拭うために音楽を手渡し、ひと夏の演奏を通じて友情と恋の境界を測る。第1巻では、薫の観察者としての視点と、幼馴染の海と千太郎の三角関係がじっくりと描かれ、演奏シーンのスウィング感がコマに空気で乗る。

読みどころ

  • 薫がピアノに手を置いてリズムを刻む場面で、音の速度を視覚化するような細い線と陰影が用いられ、主人公の「音を吸収する体質」が伝わってくる。海のドラムが徐々に重なり、千太郎のサックスが表情を揺らす描写が、バンドの呼吸を読者に伝える。
  • 幼少期の事故でドラムを叩けなくなった海のトラウマと、周囲の少年たちの「演奏が人を救う」という信念が交差し、友情の再定義が1巻の中心的対立になる。長崎の港町の空気感と、戦争の記憶がじわじわと背景に滲むため、青春の記録が社会史と共鳴する。
  • ラスト近くで札幌への合宿を思わせる描写が入り、まるで即興のジャズのように物語が展開する。恋の駆け引きと吹き込まれる音楽がリンクするため、「恋を描く音楽マンガとしての骨」がはっきりする。

類書との比較

ジャズと青春の融合としては『ブルージャイアント』に近い緊張感もあるが、『坂道のアポロン』は恋愛と友情の間にある摩擦をより繊細に扱う。また、『四月は君の嘘』がクラシック音楽の悲喜劇を描いたのに対し、本作はジャズの即興性を青春の不安定さと重ね、社会の復活期を背景にすることでテーマの幅を広げている。

こんな人におすすめ

  • ジャズを知らなくても、音のリズムを文字で感じたい読者。
  • 青春期の友情と恋に揺れる少年少女を、戦後の町で見守りたい人。
  • 音楽と社会史の交差点に引かれる方。

感想

主人公が「青い砂の道」でピアノを弾くたびに、山の空気が波を打つように揺れる。小玉ユキの線は柔らかくとも、演奏の緊張がコマごとに変化するので、読者は息を止めずにはいられない。1巻で見せた儚さと熱量のバランスが、続巻を期待させる余韻を生んだ。

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    佐々木 健太

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