レビュー
概要
古代ギリシャの歴史を背景に、青年エウメネスがクセルクセス戦争で出会った英雄たちや都市国家との関係を模索する歴史叙事詩。第1巻は、「歴史上で脇役扱いされてきた人物」から視点を変え、戦術家としての側面を掘り下げる。エウメネスがペルシア軍の将軍として活躍する一方、傭兵団として生きるトロケイオスとの友情、そして王に対する忠誠と警戒が徐々に複雑化し、激動の時代の緊張が静かな描写の中に滲む。
読みどころ
- 序盤の描写では町の酒場で語られる歴史の「噂話」が場面の間をつなぎ、史実と虚構の境目を揺らす。エウメネスがオロステナスへ忠誠を誓う場面では、政治的駆け引きと心理戦の二層が見える。
- 戦闘シーンではコマ割りを絞って、登場人物の顔の表情や手の動きといった静かなパートを中心に配置することで、「静の戦争」とでも呼べそうな空気が成立。かつての名将たちのエピソードが、現在の行動にどのような影響を与えるかが注視される。
- 終盤の「王の演説」では一見のどかな宴会の空気が、フェリクスの執念深さとエウメネスの不安で急に引き締まる。正義と裏切りの境目を行き来する構造が、硬派な文明観を支える。
類書との比較
『王の帰還』のような黄金時代の戦記と比べると、『ヒストリエ』は歴史の隙間に生きる人物を丁寧に映す。『テルマエ・ロマエ』のような絵の上での省略ではなく、資料画のようなパネルを織り込んで政治的背景を説明する点で、学術的な歴史マンガに近い。『ベルセルク』がダークファンタジーで超常的要素を扱うのと異なり、地続きのリアルさに徹している。
こんな人におすすめ
- ギリシャ・ローマ史のリアルな人間関係に惹かれる読者。
- 歴史上の重要人物の「裏方」訴求が好みの人。
- 戦争の軌跡よりも、政治の舞台裏と人間の揺らぎを味わいたい人。
感想
本巻を読み終えたとき、登場人物たちの微妙な視線のやりとりだけで一つの戦いが終わったような満足感があった。エウメネスが「誰かの道具」ではなく、意思を持った存在として動き出す瞬間が、画面からじわじわ伝わってきて、感情の温度が低いながら確実に上昇していくのが印象的だった。歴史を愛する読者だけでなく、「政治とは何か」という問いをマンガで追いたい人にも刺さる構成だと思う。