レビュー
概要
『チェーザレ 破壊の創造者』はルネサンス期のイタリアを舞台に、チェーザレ・ボルジアと彼を取り巻く政治・宗教・芸術の渦を描く歴史大作。1巻では、チェーザレが若き司祭としてアレクサンドリアで学びながら、父ロレンツォの暗躍を知り、人間関係の裏で揺れる政治的野望が芽吹いていく。ルネサンスの芸術家や教皇にまつわる固有名詞が次々に現れ、資料のように精密な描写が作品全体に重厚感を与えている。
読みどころ
- チェーザレの心象を描いたモノローグが、多重的な背景に重ねて挿入され、彼の理性と野望、そして弟との絆が決して単純な善悪に収まらない。
- 講壇での演説や教皇との駆け引きでは、政治的視点が鋭く描かれ、カトリックの権威と貴族文化の狭間で彼がどのように自身の「美学」を立てるかが見える。細かな衣装や建物の描きこみが、ルネサンスの世界の空気を伝える。
- 終盤に掲げられるチェーザレの信念「人を操るより前に人を守れ」という言葉は、彼が後にどのような暴力と創造性を同時に抱えるかを暗示する。視覚的には、絵画のようなパネル分割と、陰影の丁寧な入れ方により、読者の視野が画面全体に広がる。
類書との比較
歴史漫画としては『ベルセルク』が中世の闇をフォーカスするのに対し、本作は政治と美術の両立を目指し、『ヴィンランド・サガ』のような血で塗れたドラマよりも知的な駆け引きを前面に出す。『ローマの休日』的な愛憎も含みながら、ルネサンス期独特の哲学的な振幅を描き切る点で独自の位置にある。
こんな人におすすめ
- ルネサンス文化と政略結婚、宗教改革前夜のイタリアに興味がある人。
- キャラクターの内面を丁寧に描いた歴史群像劇を読みたい読者。
- 芸術と暴力、倫理の狭間で揺れる人物像に惹かれる人。
感想
チェーザレという存在は、史実の重みを超えて心理的にも複合的で、1巻の段階でも彼を完全に理解することはできない。美術と宗教の語りが、戦いの描写と同じくらい鮮烈で、芸術を人の感情と同じレベルで扱う姿勢が印象的だった。歴史を肉体的に扱うだけでなく、思想や詩的な空気まで丁寧にトレースする作風で、読後にはまるでフィレンツェやローマの路地を歩いたような感覚が残った。