レビュー
概要
『修羅の門』1巻は、大陸から帰国した武術家・則巻翔の成長譚を描く。幼少期に裏社会の格闘技を観て育った彼は、夜叉のような肉体を持つが、拳一つで人を殺めることを拒む。その姿勢を理解しないヤクザ、格闘家たちと戦いながら、父親から受け継ぐ武術「修羅の門」の伝統を体現していく。初巻では極東の闘技場と、かつての師匠たちのことを語る回想を交えながら、則巻が「不敗の拳」を全うする意味を問い直していく。
読みどころ
- オープニングの道場での闘いは、肉体の描写が生々しく、汗と血と呼吸のリズムがコマから伝わる。則巻の拳が技に向かうたびに、敵の呼吸や重心が描きこまれ、どちらが先に動けば勝ちなのかという緊張感を持続させる。
- 則巻の内省が多く登場し、闘いそのものよりも「誰のために戦うのか」「怒りをコントロールするにはどうすればよいか」がテーマになる。師匠の老婆の位置づけ、そして「修羅の門とは自分を憎まない修行」だと説明する場面が心に残る。
- 終盤の「地下格闘クラブ」での対戦は、場内の音響や観客の血の気、光のフラッシュが視覚的に描写され、ここまでためた迫力を一気に開放する仕組みになっている。戦後の焼け野原の影と、格闘家たちの社会的な位置づけが対比される。
類書との比較
格闘漫画としては『バキ』ほど意識的にバランスを壊す暴力ではなく、『柔道部物語』のように武術の精神性を重視する。『蒼天の拳』と比べると、拳の壊れる音よりも心理描写と感情の張りを描く構図が似ており、戦いの先にある改革や復讐よりも、自己との対話に重心がある。大量のコマで「拳を閉じた瞬間」の重さを描く本作は、迫力と哲学が共存する。
こんな人におすすめ
- 武術や格闘家の身体と精神の両方を味わいたい読者。
- 「拳に哲学を込めた」戦い方をテーマにした物語が好みの人。
- 暴力を単なる見世物にせず、社会的・歴史的背景と結びつけたドラマを読みたい人。
感想
則巻の戦い方に、無駄な力が一切入っていない。筋肉の隆起、視線のすれ違い、呼吸の長さまで細かく描かれることで、読者はまるで道場の畳にいるかのような没入感を得る。敵を倒すことよりも、拳を守ることを選ぶ姿勢が印象的で、修羅の門とは何かを問い続けていくストーリーの期待を大きくしている。