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レビュー

概要

『彼岸島』1巻は、失踪した兄を追って、主人公の宮本明が仲間とともに不気味な孤島へ向かうところから始まるホラーサバイバルだ。最初は「行方不明の兄を探す」という比較的まっすぐな目的で動いているのに、島へ近づくほど景色も人の様子もおかしくなり、読者は明たちと同じ速度で異常に飲み込まれていく。吸血鬼という題材を使っているが、1巻の怖さは怪物そのものより、「この場所では常識が通じない」と分かる瞬間の連続にある。

特に強いのは、日常から地獄への切り替えの速さだ。兄が残した痕跡を追えば真相に近づけるはずなのに、島の住民は何かを隠し、夜になると気配そのものが変わる。明たちはまだ戦い慣れていない普通の若者なので、最初の恐怖には勢いで立ち向かうしかない。その無力さが、後の『彼岸島』らしい無茶なサバイバルを始める前段としてよく効いている。

読みどころ

  • まず面白いのは、明が最初から勇者ではないことだ。兄を探したい気持ちは本物でも、島の異様さに触れれば当然怖いし、仲間の前で判断を誤ることもある。だからこそ、追い詰められた場面で少しずつ腹をくくっていく過程に説得力がある。1巻は「ヒーロー誕生」ではなく、「普通の人間が逃げ切れない場所に足を踏み入れてしまった」怖さが中心だ。
  • 島の空気の作り方も抜群にうまい。昼間は静かな漁村のように見えるのに、人々の受け答えがどこか噛み合わず、視線だけがやけに冷たい。夜になると、その違和感が一気に牙をむく。読者は「吸血鬼が出る」こと自体よりも、「さっきまで人間に見えていたものがもう信用できない」ことにぞっとする。
  • 仲間同士の関係が早い段階から揺らぐのも重要だ。こういう話では一致団結しそうなものだが、明たちは恐怖の受け止め方がばらばらで、疑い、焦り、見栄がすぐに表に出る。だから会話のひとつひとつが不穏で、危機が来る前から空気が張りつめている。サバイバルものとしての面白さは、この人間関係の崩れ方にかなり支えられている。
  • 松本光司の画面作りも印象的だ。暗闇の奥に何かがいそうなコマ、血や泥がべったり付いた身体、逃げ場のない細道。派手さより湿っぽさが前に出ていて、日本の島という閉鎖空間の嫌さがよく出ている。後年の『彼岸島』は豪快さやネタ性で語られがちだが、1巻はかなり真面目に怖い。

類書との比較

吸血鬼ものとして見ると、『吸血鬼ハンターD』のようなスタイリッシュさとはかなり違う。『彼岸島』はかっこよく敵を倒すより、知らない土地でじわじわ追い詰められる感覚が前面にある。ゾンビ映画のような集団パニックに近い部分もあるが、島に染みついた因習や秘密が濃いぶん、和製ホラーとしての粘り気が強い。

また、後のデスゲームや極限サバイバル漫画と比べても、この1巻は「ルールの説明」より「わけの分からなさ」を優先している。そのため、読者も明たちと同じく暗闇を手探りで進むことになる。情報不足そのものが恐怖になっているのが、この作品の独自性だと思う。

こんな人におすすめ

  • 閉鎖空間ホラーやサバイバル漫画が好きな人
  • 怪物よりも「場所そのものが怖い」タイプの作品を読みたい人
  • 普通の若者が極限状況でどう変わるかを追いたい人
  • 後年ネタとして知られる『彼岸島』の、真面目に怖い出発点を知りたい人

感想

1巻を読み直して改めて感じたのは、この作品が最初から「島に行った時点で半分負けている」話として始まっていることだった。明たちは勇敢に見えても、実際には何も知らず、助けも呼びにくい場所へ自分から入っていく。その判断の危うさごと引き受けるからこそ、読者は他人事として眺められない。

そして、この1巻はシリーズ全体の空気を決める役割をきっちり果たしている。吸血鬼、失踪した兄、隠し事だらけの島、夜の恐怖。どれも後の展開の土台になるが、1巻の時点ではまだ「分かったことより分からないことの方が多い」。その不安定さがとても強い引きになっていて、次巻でさらに奥へ進むしかなくなる。ホラーの入口として非常に完成度の高い1冊だ。

後の『彼岸島』の大味な魅力を先に知っている人ほど、この1巻の湿っぽく丁寧な怖さには驚くはずだ。笑える前にまずちゃんと怖いし、無茶をやる前にまず逃げ場がない。だからこそ、シリーズの原点として読む価値がある。閉鎖空間ホラーの1巻としてかなり強い。

兄を探すという個人的な目的があるぶん、明の行動には最後まで切実さが残ります。ただ怖い場所から逃げるだけでは終わらず、「ここまで来た以上は確かめたい」という気持ちがあるから、読者も島の奥へ付き合わされる。その引力が強いので、1巻の時点でシリーズの中毒性がはっきり見えます。

ホラー漫画として見ても、説明しすぎないのがいいところです。敵の全貌も島の歴史もまだ断片しか出さないから、想像する余地がずっと残る。その余白が恐怖を長引かせるので、読み終えたあともしばらく気味の悪さが残る。先へ進みたくなる一方で、進みたくない気持ちも同時に生まれる、よくできた1巻です。

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