レビュー

概要

『結界師』1巻は、「夜の学校に集まる妖(あやかし)を、結界術で退治する」という設定を、驚くほどスムーズに立ち上げる導入巻です。舞台は烏森学園。昼は普通の学校なのに、夜になると妖を引き寄せる土地の力が目を覚ます。そこで主人公の墨村良守(すみむら・よしもり)と、雪村時音(ゆきむら・ときね)が、結界師として見回りを続けています。

結界師の戦い方はシンプルで、相手を「囲う」ことから始まります。見えない壁を張って閉じ込め、浄化し、消す。いわゆる格闘漫画の殴り合いとは違い、技の仕組みと判断の速さが勝負を分けるのが特徴です。

読みどころ

1) 結界術が「ルールのある力」として描かれる

本作の面白さは、結界が万能の魔法になっていないところです。結界を張る位置、広さ、強度。相手の動きに合わせて組み立て直す必要があり、失敗すれば普通に抜けられる。良守が結界を張っては崩され、焦って組み直すテンポが、導入としてすごく気持ちいいです。

囲って終わりではなく、囲ったあとにどう「浄化」まで持ち込むかが課題になる。ここが分かるだけで、以降のバトルがただの必殺技合戦にならない予感がします。

2) 良守と時音の距離感が、最初からドラマになっている

良守は熱量が高く、時音は落ち着いていて実務的。二人が同じ現場に立っていても、見ている景色が少し違います。良守の「追いつきたい」気持ちは、恋愛っぽさだけでなく、未熟さへの焦りとしても読める。1巻の時点で、キャラの動機が戦い方に反映されているのが良いところです。

3) 「学校の夜」という舞台が、怖さと日常を両立させる

妖の出る場所は山奥や異世界ではなく、教室や廊下です。昼に知っている空間が、夜にだけ別の顔を見せる。これがじわっと怖い。しかも良守たちは毎晩そこへ行くので、ホラーではなく「仕事」になります。その温度が独特で、世界観の説得力になります。

1巻で分かる「結界師の仕事」の感じ

この巻は、世界観の設定を説明しつつ、良守と時音が「夜に学校へ行く理由」を、行動で見せてくれます。烏森という土地が妖を引き寄せるから、放っておけば被害が出る。だから見回る。すごくシンプルです。
この“当たり前のルーティン”が先に来るので、読者も「今日も来るんだな」「今日も戦うんだな」と生活として受け取れます。

結界術の描写も、派手さより手順の気持ちよさがあります。四角い空間を作って閉じ込め、逃げ道を塞ぎ、相手の動きに合わせて張り直す。そういう「囲う→整える→仕留める」流れが見えるので、強い弱いの前に“上手い下手”が立ち上がります。

良守の未熟さが、ちゃんと物語を動かす

導入巻の主人公って、読者が置いていかれないように“ちょうどよく説明役”になりがちです。でも良守は、説明役というより先に、現場でミスをする側です。
そのミスがあるから、結界術の怖さも伝わるし、時音の頼もしさも立ち上がる。完璧な主人公より、未熟な主人公のほうが、この作品には合っていると感じます。

それに、良守の熱さは空回りだけで終わりません。夜の学校へ行く理由が「やらなきゃいけないから」だけだと、続けるのはしんどい。良守には、感情の燃料がある。1巻は、その燃料が暴走になったり、踏ん張りになったりする様子が見えます。

こんな人におすすめ

  • 設定の説明が上手い漫画を読みたい人
  • バトルの駆け引きや「技の仕組み」が好きな人
  • 学園ものの雰囲気も、怪異ものの雰囲気も両方ほしい人

感想

1巻でいちばん印象に残ったのは、結界術の“手触り”でした。
壁を作って囲う発想は分かりやすいです。
それでも戦闘は単純じゃありません。
相手の動きが速いと囲えないし、囲っても逃げ道を作られる。
だから、良守の焦りや、時音の判断の早さが、そのまま読み味になります。

個人的に好きなのは、「強い敵を倒した」より「うまく囲えた」のほうが達成感として残るところです。スポーツの試合で、派手な得点より、流れをひっくり返す一手が気持ちいい感覚に近い。1巻は、その快感が読者に伝わるまでのスピードが速いです。

学園の夜を見回る二人の姿は、かっこよさと少しの寂しさが同居しています。誰にも知られない場所で、誰にも感謝されない仕事を続けている。それでもやめない理由が、良守の意地や時音の責任感として見えてくる。導入巻なのに、すでに「続きが気になる関係性」が出来上がっているのが強いと感じました。

あと、個人的にぐっとくるのは、良守が“勢いだけの正義感”で突っ込んで、時音が現実的にカバーする瞬間です。良守は未熟だけど、未熟さがあるから伸びしろがある。時音は強いけど、強いことが楽ではない。1巻の時点で、その両方が見えます。

「次はもっと上手く囲えるようになりたい」という気持ちが、読者側にも生まれるのが不思議です。バトル漫画なのに、技を真似したいというより、判断の速さや手順の綺麗さに憧れる。そういうタイプのかっこよさがある導入巻でした。

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