レビュー
概要
『AKIRA 1(OTOMO THE COMPLETE WORKS)』は、『AKIRA』を「完成形」ではなく「連載時の熱」をまとった状態で読み直せる、大友全集版の第1集です。収録範囲は第1〜14回(単行本1巻のP279まで)で、連載時のままの形にできる限り戻して復刻する、というコンセプトが軸になっています。
『AKIRA』は歴史的作品として語られますが、実は単行本化の際に、加筆、修正、削除、差し替え、ページやコマの入れ替え、仕上げの追加、描き下ろしなど、かなりのブラッシュアップが行われていた、と本書は明言します。つまり、普段読んでいる単行本版は“磨き上げられた完成形”。この巻が見せるのは、その前の“LIVEな連載版”です。
読みどころ
1) 「連載版」と「単行本版」の違いを、作品体験として味わえる
『AKIRA』の完成度の高さは有名ですが、その完成度が「最初からそうだった」わけではない、という視点が面白いです。どこがどう磨かれたのかを意識しながら読むと、名作が名作になる過程そのものが見えてきます。
2) 扉絵が戻ってくることで、“雑誌の時間”が復活する
単行本では削除されている扉絵が、連載時の状態で収録されるのは大きいです。扉絵は飾りではなく、当時の読者が毎回受け取っていた「予告」「余韻」「空気」の一部。ここが戻るだけで、読み心地が変わります。
3) 見開きカラーやカラーページの復刻が「当時の興奮」を再現する
単行本版とは異なる第1回の見開きカラーや、連載時のカラーページが当時のまま復刻される、とされています。『AKIRA』はモノクロの迫力も強いですが、カラーが入ると“事件”としてのインパクトが増す。歴史資料としても楽しいです。
本の具体的な内容
この巻は、1982〜1983年に大友克洋が制作し、創刊2年目のヤングマガジンで始まった連載『AKIRA』の第1〜14回を、発表時の形で収録したものです。単行本1巻のP279までが範囲とされ、全8巻の第1集にあたります。
特徴は、「全仕事を時代ごとに並べ、作家としてどのように変化してきたかも追えるように」という主旨に沿い、扉絵を含めた全てを、できうる限り連載時の状態に戻している点です。原稿が現存しない部分や、原稿を直接修正したために戻せない部分はあるとしつつ、「可能な限り当時の状態に戻す」ことを命題にしている。
つまりこれは、単行本版の代替ではなく、別の作品体験です。完成形の『AKIRA』が“彫刻”だとしたら、連載版は“生放送”に近い。勢い、荒さ、時代の湿度が、そのまま残っています。
類書との比較
名作の特装版や完全版は多いですが、この巻の面白さは「綺麗に整える」のではなく、「当時に戻す」方向で徹底しているところです。通常は、後年の印刷技術で見やすくする、読みやすくする、という方向に行きがち。でも本書は逆で、作品が“出来上がる前”の状態をできる限り保存します。
そのため、初めて『AKIRA』を読む人の入口としては、単行本版の方が分かりやすい可能性もあります。一方で、既に『AKIRA』を知っている人にとっては、これは必携の別腹です。完成形を知っているからこそ、連載版の刺激が分かります。
こんな人におすすめ
- 『AKIRA』の単行本版を読んだことがあり、別の角度で体験したい人
- 大友克洋の制作過程や、作品が磨かれるプロセスに興味がある人
- 連載時の扉絵やカラーページ込みで“当時の興奮”を味わいたい人
- 漫画史の資料として、決定版を手元に置きたい人
感想
この巻を読んで感じたのは、名作って「最初から完成していた」わけじゃない、という当たり前の凄さでした。加筆や入れ替えで磨き上げた単行本版が完成形なら、連載版は“火”が強い。荒さがあるからこそ、当時の読者が受けた衝撃の温度が分かります。
『AKIRA』はストーリーの凄さだけじゃなく、ページの圧と空気で殴ってくる作品です。その圧が「連載」という時間の中でどう立ち上がっていったのかを、作品として体験できる。これは単なるコレクターアイテムではなく、読書体験が変わる第1巻だと思いました。
読み方としておすすめなのは、単行本版と細部を“答え合わせ”するより、まず連載版を連載版として通すことです。違いを探し始めるとキリがなくて、作品の勢いより資料読みになってしまう。勢いのまま読んでから、気になった箇所だけ単行本版に戻ると、「なぜここを直したのか」が自然に浮かびます。名作の裏側を覗くというより、名作が生まれる瞬間の温度を浴びる感覚が、いちばん贅沢でした。