レビュー

概要

『月刊少女野崎くん』17巻は、少女漫画家男子・野崎梅太郎の周りで、恋が進みそうで進まないまま、ギャグとすれ違いが加速していく巻です。紹介文では、連載漫画「恋しよっ♡」のストーリーに悩む野崎が、堀政行に似た新キャラを活躍させようとして周囲に相談したところ、まさかの地獄展開になるとされています。

さらに、瀬尾結月が「恋愛成就の女神様」になる話や、鹿島遊が「なんで少女漫画が読めないの!?」という驚きの展開も紹介されています。ラブとギャグが高揚すると書かれていて、シリーズらしい濃さが期待できる17巻です。デジタル版限定特典として、描き下ろしページ2Pが収録されると明記されています。

読みどころ

1) 「相談したのに、なぜか悪化する」地獄展開の快感

野崎くんの面白さは、本人が真面目に仕事をしているのに、周囲の助言が思わぬ方向へ話を押し流していくところです。17巻は「新キャラを活躍させたい」という、漫画としてはまっとうな悩みから始まります。

ただ、紹介文が言うとおり、相談相手が堀に似た新キャラという時点で、危ない匂いがします。キャラのモデルにした瞬間、現実の人間関係が混ざります。そこへ周囲のノリや誤解が入ると、仕事の相談が生活の騒動に変わっていく。このシリーズの得意技が、一番おいしい形で出そうです。

2) 瀬尾が「恋愛成就の女神様」になる違和感が面白い

瀬尾結月は、善意と破壊力が同居するキャラです。だからこそ「恋愛成就の女神様」という紹介は、読者側の期待を裏切る予告でもあります。

恋愛成就という言葉は、普通は優しい話の入口です。そこで瀬尾が絡むと、優しさの方向がズレる。善意のままに加速して、当事者が追いつけない。そういうズレで生まれる笑いは、この作品の中毒性だと思います。

3) 鹿島が少女漫画を読めない理由が、物語の芯に触れる

鹿島遊は、王子様キャラとして周りを振り回す存在です。その鹿島が「少女漫画が読めない」となると、ギャグとして面白いだけでなく、作品自体のメタな面白さにも繋がります。

少女漫画的な感情表現のルールを、キャラが理解できない。すると、作品が当たり前にしてきた「ときめき」の前提が揺れます。揺れた瞬間に、読者は「恋って何だっけ」と立ち止まれる。笑いながら核心に触れるのが、このシリーズの強さです。

17巻を読む前に押さえると楽になること

この巻は、紹介文だけでもキャラ名がいくつも出てきます。シリーズを途中から読む人は、関係図が不安かもしれません。ただ、本作は基本的に、1話単位のギャグとしても成立します。

まずは、野崎は少女漫画家で、周囲がその制作に巻き込まれる。そこだけ押さえて読み始めると、細かい関係性は自然に見えてきます。むしろ関係性が分からない状態のほうが、すれ違いのギャグが新鮮に刺さることもあります。

「制作」が恋愛をこじらせるのが、この作品の面白さ

普通のラブコメは、恋愛感情が行動を動かします。けれど本作は、少女漫画を描くという仕事が、恋愛をこじらせる側に回ります。野崎が漫画のために観察し、メモを取り、相談する。その行為が、周囲の気持ちに火をつけます。

17巻の「堀に似た新キャラ」の話は、その象徴です。キャラ作りは本来、物語を前に進めるための工夫です。ところがモデルが身近な人物になると、現実の関係にも影響が出ます。仕事と人間関係が混ざった瞬間に、笑いが跳ねる。ここがこのシリーズの強さです。

デジタル版限定特典の「2P」は後味を変える

デジタル版限定特典として、描き下ろしページ2Pが収録されると明記されています。2ページは短いですが、この作品の場合、短いほど効くことがあります。

本編で荒れた空気が、ちょっとした描き下ろしで落ち着いたり、逆に火が付いたりします。巻を読み終えた最後に、もう1回笑わせる余白がある。こういう後味の作り方が上手いです。

この巻は「いつもの面々」が違う役回りをするのが楽しい

紹介文だけでも、野崎、堀、瀬尾、鹿島はそれぞれ別方向の話題で動いています。固定の役割があるキャラは、巻ごとに違う角度から転びます。これが、この作品の読みやすさです。

誰かの恋を応援しているようで、実は原稿のためだったり、善意のつもりが地雷だったりします。ラブコメの甘さより、観察の鋭さが笑いになる。17巻はその方向が強そうです。

類書との比較

  • 学園ラブコメで「付き合うまで」を一直線に描く作品は、恋の進展が主役になりやすいです。本作は進展の遅さを武器にして、すれ違いと制作現場のギャグを濃くします。
  • 漫画制作を描く作品は、締切や編集とのやり取りが中心になりがちです。本作は制作のリアルより、制作が人間関係を荒らす面白さに寄っています。
  • 日常ギャグ漫画は、キャラの性格が固定されるほど安定します。本作は固定されたキャラを、毎回別の角度から暴れて見せるので、巻が進んでも鮮度が落ちにくいです。

こんな人におすすめ

  • ラブコメの甘さより、すれ違いとギャグの勢いを楽しみたい人
  • キャラ同士の関係がこじれていく過程を笑いたい人
  • 1冊でテンポよく読めるコメディを探している人

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    佐々木 健太

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