レビュー
概要
『コミック虹色デイズ(全16巻)』は、男子高校生4人組の日常を中心に描く学園コメディです。夢みがちな妄想男子・羽柴夏樹、チャラくて女好きの松永智也、いつもニコニコしながら実はドSな片倉恵一、空気を読まないマイペースなオタク・直江剛。性格も恋愛観もバラバラなのに、なぜかいつも一緒にいる。この「なんだかいつも一緒」が、この作品の面白さです。
少女漫画誌『別冊マーガレット』で連載されながら、主人公が男子側にあるのも特徴です。恋愛を中心にしつつ、男子の友情やノリ、しょうもない意地が前に出る。だから、甘さと笑いが同時に立ち上がります。全巻セットは、4人それぞれの恋と成長を、最初から最後まで一気に追える形になっています。
物語の始まりがすでに“虹色”
あらすじの起点になるのはクリスマス直前です。夏樹は彼女の小林百合とのデートを控えていますが、智也と恵一がファーストフード店で百合の本性を見かけてしまう。忠告されても納得できない夏樹は、智也と喧嘩します。ところがデート当日、高級な食事や物品を強請られ、断った瞬間、百合に振られる。落ち込む夏樹が、ティッシュを配っていた小早川杏奈と出会い、百合に渡すはずだったマフラーを杏奈に渡してしまう。この始まり方がすごく良いです。
恋愛の失敗から始まるのに、作品の空気は暗くなりません。むしろ、失恋の恥ずかしさが、次の恋の推進力になる。夏樹の不器用さが、笑いと共感の両方を連れてきます。
読みどころ
1) 4人の役割分担がきれいで、会話が止まらない
夏樹が感情で突っ走り、智也が軽口で場を動かし、恵一が笑顔で刺し、剛が想定外の方向へ話をずらす。4人が揃うと、場面が自然に回ります。しかも、ただ賑やかなだけではなく、恋愛の場面ではそれぞれの弱さが出る。そこが単なる日常ギャグで終わらない理由です。
2) “番外編”の設計が作品世界を厚くする
本編だけでなく、男子側に比重を置いた「虹色日和」や、女子側に比重を置いた「Rainbow Girl」といった番外編が用意されているのも特徴です。これがあることで、同じ出来事が別の角度で見えるようになります。恋愛漫画でありがちな「片方の気持ちだけを正解にする」構図に寄らず、視点を増やすことで、登場人物は生きやすくなる感覚があります。
3) コメディの中に、ちゃんと“痛い現実”がある
作品は基本的に明るいのに、痛い瞬間も逃しません。たとえば夏樹が「キモい」と一蹴される場面は、笑えると同時に刺さります。高校生の恋は、手応えがないまま手を伸ばし、痛い目を見て、少しだけ賢くなる。その積み重ねを、説教臭くせずに描きます。
全巻セットで読む価値
巻が進むほど、4人それぞれに「最初の自分」を更新する瞬間が出てきます。最初はノリで恋をしているように見えた智也が、どこで誠実さに寄っていくのか。笑っているだけに見える恵一の距離感が、どう変化していくのか。マイペースな剛が、関係の芯になる場面がどこで現れるのか。1冊ずつだと見逃しやすい流れが、全巻で読むと線になります。
全16巻をまとめて読むと、季節行事や学校行事の繰り返しが、ただのイベントではなく「変化の測定器」になるのも良いところです。去年は言えなかったことが、今年は言える。去年は笑って逃げたことを、今年は拾い直す。そういう小さな更新が、全巻セットだと見えやすくなります。
具体的なエピソードが示す「青春の扱い方」
この作品は、恋愛のイベントを大げさに扱わず、むしろ失敗や勘違いを丁寧に拾います。
たとえば序盤の夏樹は、杏奈に好意を寄せる望月渉の存在を知って落ち込みます。まりもまた、望月が杏奈と親しくするのを快く思っていない。4人で昼食を取る場面では、望月のペースに翻弄された挙げ句、夏樹がまりに好意を寄せていると勘違いされる。こういう「ややこしさ」が、青春らしさの正体だと感じました。誤解を解くために言葉を選び、関係の距離を測り直す。その小さな修正が、恋愛を現実の時間へ落とします。
もう少し変化球だと、学校七不思議の「トイレの次郎くん」に取り憑かれる話があります。夏樹の体を借りた次郎は、さおりに似た杏奈とデートしたいと言い出す。ギャグのようでいて、未練や成仏といった感情の話にも触れる。この作品はコメディとして軽やかに読みながら、登場人物の孤独をふっと見せる場面の切れ味が光ります。
こんな人におすすめ
- 恋愛漫画が好きだが、友情のノリも欲しい人
- 失恋や照れくささを、軽やかに笑い飛ばしたい人
- 1話ごとの小ネタと、長い成長の両方を味わいたい人
『虹色デイズ』は、特別な事件より、日常の“ちょっとした揺れ”で関係が変わる漫画です。全16巻を読み終える頃には、4人の毎日が、タイトル通りのグラデーションとして記憶に残ります。青春を大げさに美化せず、それでも愛おしく描く作品でした。