レビュー
概要
『五等分の花嫁』1巻は、成績優秀だけれど貧乏で人付き合いの悪い上杉風太郎が、超高額バイトとして五つ子姉妹の家庭教師を引き受けるところから始まるラブコメです。未来の結婚式の場面を先に置くことで「この五人のうち誰かが花嫁になる」と示しつつ、1巻ではまず全員に嫌われた状態からスタートする。その入口の作り方がうまく、ハーレムものの軽さだけでなく、攻略対象が最初から五人まとめて難敵である面白さがはっきり出ています。
読みどころ
- 五つ子が見た目は似ていても、中身はかなり違うことが1巻の時点でよくわかります。誰が一番かわいいかではなく、誰がどんな形で風太郎を拒絶するかを見るだけで楽しいです。
- 風太郎が優しさより理屈で突っ込んでいく主人公なのも新鮮です。感じのいい家庭教師ではなく、勉強しない相手に普通に腹を立てるので、やり取りに変な遠慮がありません。
- ラブコメとしての入口なのに、1巻の中心は恋愛より「信頼をどう取るか」です。だから最初の積み上げに説得力があります。
- 未来の花嫁が誰なのかというミステリーの仕掛けも、シリーズを読む動機としてしっかり効いています。
本の具体的な内容
序盤で風太郎は、学食で出会った失礼な少女が実は自分の教え子のひとりだったことを知ります。そこから中野家の五つ子と向き合う話になります。彼女たちはそろって勉強嫌いで、しかも家庭教師の必要性を感じていない。風太郎は高時給につられて引き受けたものの、歓迎されるどころか露骨に拒絶され、まともに授業すら始められません。
1巻の面白さは、五つ子それぞれが別の理由で風太郎を遠ざけるところです。露骨に敵意を見せる子もいれば、適当にかわす子、外面は穏やかでも話を聞かない子もいる。そのため、風太郎は「勉強を教える」以前に、相手の性格を見抜いて足場を作る必要がある。この順番があるので、家庭教師ものとして自然に読めます。
また、風太郎がただ口うるさい秀才で終わらないのも大事です。家計の事情があるから本気でバイトにしがみつくし、相手が問題児でも途中で投げない。その粘りが少しずつ五つ子の見方を変えていく。1巻ではまだ好感度が一気に上がるわけではありませんが、「この関係は動き始める」と感じさせる終わり方がうまいです。
類書との比較
ラブコメ作品は多いですが、『五等分の花嫁』は最初から「誰と結ばれるか」が明示されているぶん、読者の興味がキャラ人気だけに流れにくいです。全員候補であり、全員問題児であり、全員が攻略対象でもある。この整理の仕方がシリーズ全体の強さになっています。
また、主人公が優柔不断すぎないのも良いです。モテることに戸惑うより、まず勉強をどうさせるかで頭がいっぱいなので、1巻は恋愛ものというより人間関係の立て直しとして読める。そのぶん後の感情の変化が効いてきます。
こんな人におすすめ
- ラブコメでも序盤の関係構築をしっかり読みたい人
- 五人それぞれの個性が早い段階で立つ作品が好きな読者
- 未来の結末が先に示される構成を楽しめる人
- 主人公が理屈で突破しようとするタイプの作品を楽しめる人
感想
1巻を読むと、五つ子の誰かを選ぶ前に、まず全員とまともな会話を成立させるまでがかなり遠いとわかります。そこがむしろ面白い。最初から好かれていないので、ちょっとした前進に手応えがあります。
風太郎の言い方はきついのに、状況が進むにつれて「こいつは逃げない」という信頼が少しずつ見えてくるのも良いです。ラブコメとしての華やかさと、学園ものとしての地道な関係作りが同居していて、導入巻としてかなり強い一冊でした。
五つ子の側も、ただ嫌な態度を取るだけではなく、勉強が苦手な理由や家庭教師を拒む事情が少しずつ見えます。そのため、風太郎が押しつけているだけの関係に見えません。1巻の時点で「この子たちの側にも事情がある」と感じられるので、続きを追いやすいです。
また、誰が花嫁かという未来の仕掛けがあることで、序盤の何気ないやり取りにも後から意味が出そうだと感じます。ラブコメとしての明るさ、ミステリーとしての引き、群像劇としての整理が全部そろっている。シリーズの入口としてかなり優秀でした。
1巻で特にうまいのは、五人を最初から均等に扱わないところです。反発の仕方や距離の取り方に差があるので、風太郎との会話だけでそれぞれの温度が見えてきます。誰が先に歩み寄るのか、誰が最後まで壁を残すのかという流れ自体がドラマになっていて、続巻への期待が自然に積み上がります。
勉強もの、ラブコメ、群像劇の3つを無理なく同居させる設計が1巻の時点でもう見えているのも強みです。 序盤の拒絶がしっかり強いぶん、少しの変化でもよく効きます。 続刊で関係がどう崩れ、どう近づくかを素直に追いたくなります。