レビュー
概要
『たいようのいえ』1巻は、東京から地方の空き家へ戻った主人公が祖母の遺した家でゆっくりと立て直していく暮らしを描く。主人公は都会の喧騒になじまなくなり、静寂の中にある「香り」や「光」に心を許すようになる。祖母の家には昭和の教科書や色褪せた写真が残り、それらを拾い集めることで主人公は過去の時間と対話し、自分なりの家族のようなものを作り直していく。
読みどころ
- 散歩のように章が連なる構成で、風鈴の音や窓の開き方など、空間の重心に寄り添った演出が続く。迷い込んだような視点で空き家を歩き、つま先で床のきしみを感じ取るような描写によって、読者もじわじわとその場面に引き込まれていく。
- 「たいよう」のタイトルには、東に顔を向けて光を取り込むという意味があり、ひたむきに太陽と対話しながら自分の暮らしを再構成する姿勢が描かれている。作者自身も都会のリズムを無理に追いかけず、静かに太陽を受け入れたかったとインタビューで語っており、その気配が作品全体に漂う。
- 空き家には昔の友人や初恋の記憶が息づき、夜の縁側の会話がやさしく紡がれる。逃げ場に見えて実は決断の場でもあり、読者は隠れた層が開くたびに主人公の距離感が変わることに気づく。
- コマ割りは静かな会話を尊重し、セリフの余白がまるで呼吸のラグのようだ。細密な自然描写や光の入り方によって、ページ全体に詩的な時間が流れる。
類書との比較
『地球のおわりのうた』が都市と田舎の二重生活を描くのに対し、『たいようのいえ』は空き家を舞台に、記憶を再編成する軸に焦点を当てる。帰る場所を失った人が、物理的な空間を通じて情報を整理し、自分のなかに新しい秩序をつくる点で差別化されている。 『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』のように幼い頃の記憶で絆が生まれる作品と比べると、本作は大人になって戻った場所の匂いや光に重きを置き、「再会の匂い」そのものを物語の核に据えている。
こんな人におすすめ
- 季節のひかりや匂いを漫画のコマで味わいたい人
- 空き家や祖母との時間を思い出して、暮らしの軸を立て直したい人
- 誰かと「たいよう」を共有する感覚を求める人
- 静かな再生の物語が好みの人
感想
- 祖母の家に残された家具を一つずつ触れるように描写され、読者が手を伸ばすように空気感が伝わってくる。
- 都会で削ぎ落としたものを風鈴の音や光によって少しずつ取り戻していく主人公の姿勢が、静かな再生の物語として染みる。
- 縁側の太陽の筋が急に強まり、息を止めたくなるような緊張感を生む演出が心地よい。