レビュー
概要
小学生時代から父の転勤に連れられて転校を繰り返す敦と、地元で育った沙羅の距離を軸に、「時間」や「運命」がすこしずつ絡み合う少女マンガ。第1巻では幼い敦が沙羅の家を訪れ、純粋な恋として芽生えたふたりの関係が、やがて悲劇的な転機を迎えるまでを丁寧に描写。転校生の立場と残された幼馴染の視点を同時に追いながら、「流れる時間」を繊細な画面で語る。
読みどころ
- 沙羅が敦の手を握って「やさしくして」と言うシーンが、周囲の風景を真っ白にして浮かび上がる。太い線よりも水彩に近いグラデーションで感情を表す芦原作品らしい抒情が展開され、読者は視覚的にも「距離感」を意識させられる。
- 1巻中盤で沙羅が事故に遭い、ふたりの時間が引き裂かれる場面では、ページ内で時計の針を拡大する構図が複数回使われ、時間の連続性と断絶が同時に感じられる。主人公の心を引き戻すために過去の思い出が挿入される方式がスローモーなリズムを作り、読む人にじわじわと訴えかける。
- 未来を見通せないふたりの姿を、サブキャラの友達や教師の視線からも補強。敦の両親の調停や沙羅の家族関係が、ピンポイントで「時間の蓄積が人をつつむ」イメージを運び、感情の厚みを補強する。
類書との比較
時の絡まりを扱う恋愛譚としては『君に届け』のような丁寧な距離感の描写と共通するが、『砂時計』は悲劇と正面衝突するまでのスピード感が独特。『オレンジ』のような未来改変ではなく、「いまここ」の時間だけで気持ちが伸びては消える、だからこそ余計に熱を帯びる。芦原妃名子の絵柄は『ストロボエッジ』のような柔らかさと、時に激しいコントラストに耐える。
こんな人におすすめ
- 幼馴染の距離の変化と時間の流れに鋭敏な読者。
- しっかりした心理描写と、静かに揺れる表情を読みたい人。
- 少女マンガ的なドラマにはまって、ふたりの「今」を生きたい方。
感想
沙羅と敦の間に流れる沈黙は、言葉よりも長く、あの日に戻れない悲しさがコマ外に溢れてくる。1巻のうちに何度も視線を交わしながらも距離を詰められなかった分、最後のページの一瞬の笑顔に救われる。時間に翻弄される危うさの上で、心の温度が徐々に変わっていく姿が印象に残った。