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レビュー

概要

『砂時計』1巻は、両親の離婚をきっかけに東京から島根へ引っ越してきた少女・植草杏が、北村大悟と出会い、子ども時代から思春期へ向かう気持ちの揺れを経験していく少女漫画です。幼なじみものとして読めますが、1巻の時点でかなり重い出来事があり、ただ甘いだけの初恋物語では終わりません。田舎へ移り住んだ孤独、母との関係、家族の崩れ方といった現実の痛みの中で、大悟とのつながりがどれだけ大事だったかがよく見える導入巻です。

読みどころ

  • 杏と大悟の距離が、子ども時代の無邪気さと、少しずつ恋に変わっていく気配の両方で描かれるのがいいです。
  • 芦原妃名子らしい繊細な感情描写が強く、言葉にしきれない不安や寂しさがよく伝わります。
  • 母との関係や家庭の崩れが恋愛と切り離されておらず、少女漫画としてかなり重みがあります。
  • 「砂時計」という題名どおり、時間の積み重なりや戻れなさが物語の芯になっています。

本の具体的な内容

1巻の杏は、両親の離婚後、母と一緒に母の実家がある島根へ移り住みます。東京での生活から急に切り離され、方言も空気も違う土地で暮らし始める杏は、最初かなり不安定です。そんな杏の前に現れるのが大悟で、彼のまっすぐさと明るさが、杏にとって新しい土地での救いになっていきます。この「まず居場所を作るところから始まる恋」が、1巻の大きな魅力です。

ただし、本作はそこで安心させて終わりません。杏の母は離婚の傷から立ち直れず、精神的に追い詰められていきます。1巻ではこの家庭のしんどさがかなり正面から描かれ、杏は子どもでありながら、母の不安定さをまともに受け止めざるを得ません。少女漫画の導入としてはかなり重いのですが、この重さがあるから大悟の存在が強く効きます。

大悟との関係も、最初から完成された恋ではありません。子ども同士の無邪気な親しさの延長にありつつ、少しずつ特別な感情へ変わっていく気配が見えます。その変化は、杏の家庭の事情や心の傷とも重なります。だから、ただ楽しいだけでは進めません。初恋のきらめきと生活の現実の重さが、同時に立ち上がるところに本作らしさがあります。

1巻の終盤まで読むと、この物語が「好きな人と出会う話」であると同時に、「失ったものとどう生きるか」の話でもあるとわかります。砂時計というモチーフが示すように、時間はただ流れるだけでなく、戻れないものを少しずつ積み上げていく。その感覚が最初の一冊からはっきり出ています。

類書との比較

幼なじみや初恋を描く少女漫画は多いですが、『砂時計』は家族の問題や喪失がかなり重い形で入ってくるのが特徴です。『君に届け』のようなまっすぐさとも、『ストロボ・エッジ』のようなきらめきとも少し違い、もっと生活の苦さが近くにあります。

そのぶん、恋愛の一つひとつが軽くありません。好きになることが現実逃避ではなく、つらい現実の中でどうやって誰かを支えにするかという話になっている。この重心の低さが本作の個性です。

こんな人におすすめ

  • 少女漫画でも感情の重い作品を読みたい人
  • 初恋と家族の問題が並行して進む物語が好きな人
  • 幼なじみの関係が少しずつ変わる話に惹かれる人
  • 芦原妃名子の繊細な心理描写が好きな読者

感想

1巻を読むと、まず杏の孤独がかなり痛いです。引っ越し先に馴染めないだけでなく、母の不安定さまで背負わされるので、子どもなのに逃げ場が少ない。そんな中で大悟がいてくれることの意味がすごく大きく見えます。恋愛以前に、まず救いとして存在しているのがいいです。

一方で、大悟との関係もただやさしいだけではありません。近いからこそ傷つくし、支えられるからこそ失うのが怖い。その感覚が1巻からしっかり出ているので、後の展開が重くなることも自然に想像できます。

祖母の家での暮らしや、島根の土地の空気まで含めて、杏が少しずつ新しい時間へ押し出されていく描き方も良かったです。環境が変わるだけで人はこんなに心細くなるのだと伝わるし、その中で大悟の何気ない言葉や態度がどれだけ救いになるかもよく見えます。

初恋の甘さを描きながら、同じくらい喪失や不安も描いている。そのバランスがとても強い作品でした。1巻の時点でかなり感情を持っていかれるので、ただの懐かしい少女漫画として読むにはもったいない一冊です。

時間が流れるほど人は大人になるけれど、その途中で受けた傷まで簡単には消えない。1巻にはその当たり前の痛みがしっかり入っています。だから大悟との出会いも運命的な恋というより、壊れかけた日常の中で見つけた小さな光として読める。そこがこの作品の強さでした。

恋愛の始まりを描く巻でありながら、同時に喪失から立ち直る入口でもある。この二重の読み味が、今読んでも古びません。再読にも向く一冊です。

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