レビュー
概要
『ニセコイ』1巻は、ヤクザの息子・一条楽と、ギャングの娘・桐崎千棘が、家同士の抗争を止めるために「恋人のふり」をすることになるラブコメです。設定だけ見るとかなり大げさですが、実際に読んでみると、この無茶な前提がうまく効いています。最悪の第一印象で出会った二人が、人前では仲良く振る舞わなければならない。その無理のある状況が、そのまま作品のテンポになっています。
1巻でもう1つ重要なのが、楽が昔に交わした「約束の女の子」の記憶です。鍵とペンダントのモチーフが最初から置かれていて、単なる学園ラブコメでは終わらない引きがあります。千棘との偽装交際という今の話と、昔の約束という過去の話が重なっているので、笑いの多い作品なのに、先を読みたくなる芯が最初からあります。
読みどころ
いちばんの読みどころは、楽と千棘の険悪さが、そのまま掛け合いの面白さになっているところです。最初の二人は相性が悪く、話も合いません。それでも周囲の前では恋人らしく見せなければならず、そこで生まれる無理な芝居や空回りがしっかり笑えます。ただ、ただの口げんかで終わらず、いざというときには相手を見捨てないので、関係が少しずつ変わる気配も見えてきます。
また、1巻の時点で小野寺小咲の存在がかなり効いています。楽が本当に好意を寄せている相手が別にいるからこそ、千棘との偽装関係はさらにややこしくなります。読者は、今の関係が偽物だと知りつつ、偽物だからこそ本音がにじむ場面を見ていくことになる。この構造がうまいので、王道ラブコメでも読み味が単調になりません。
さらに、ジャンプらしい勢いのあるコメディと、約束の少女をめぐる謎が無理なく同居しているのも魅力です。1巻ではまだ大きく種明かしされませんが、「この鍵は誰のものなのか」「昔の記憶は何につながるのか」という疑問がきちんと残ります。笑って読めるのに、続きを開く理由までちゃんと作っている導入巻です。
楽という主人公の立ち位置も良くて、受け身すぎるラブコメ主人公にはなっていません。面倒ごとに巻き込まれつつも、筋を通すところでは通すし、相手が困っていれば助ける。その性格があるから、千棘のように気の強い相手とも、小野寺のような穏やかな相手とも関係が成立します。誰と組んでも場面が動く主人公なので、ハーレム的な設定でもキャラ任せに見えません。
類書との比較
学園ラブコメには、少しずつ距離を縮める型の作品も多くあります。『ニセコイ』はそこから外れて、最初から「恋人のふり」をさせることで、距離の近さと本音の遠さを同時に作ります。甘さより先にズレと笑いが立ち上がる、その構造が特徴です。さらに、昔の約束という謎まで重なるので、恋愛だけでなく「本当に特別な相手は誰なのか」を追う面白さもあります。
また、少年漫画のラブコメとしてテンポがかなりいいです。心情を重く掘るより、まず状況の面白さで引っぱる。ただし、軽いだけではなく、キャラクターの立場や気持ちに最低限の筋が通っているので、読後に薄く感じません。笑わせながら、ちゃんと次巻への期待を残すタイプの1巻です。
しかも、読む側が「誰を応援するか」を早い段階で考え始められるのも強みです。小野寺との王道感、千棘との反発しあう相性、約束の少女という未確定要素。それぞれの線が最初から立っているので、続巻で新しい人物が増えても軸がぶれにくいとわかります。長編ラブコメの設計としてかなり手堅いです。
こんな人におすすめ
- テンポのいい学園ラブコメを読みたい人
- 最悪の出会いから始まる掛け合いが好きな人
- 恋愛だけでなく、昔の約束をめぐる謎も楽しみたい人
- 少年誌らしい勢いと王道のときめきを両方ほしい人
感想
この1巻を読むと、設定の派手さに対して、キャラクターの感情の置き方が案外まっすぐだと感じます。楽も千棘も、最初は相手に対して好感を持っていません。でも、嫌いだからこそ無視できず、無理に近くいるからこそ小さな良さも見えてしまう。このラブコメの基本を、かなりわかりやすく、しかも勢いよく見せてくれます。
個人的には、千棘がただ乱暴で強いヒロインではなく、居心地の悪さや不器用さを抱えたキャラクターとして見えてくるのが良かったです。1巻ではまだ本格的に掘り下げられませんが、楽との関係がただの偽物では終わらなさそうだと感じさせるだけの材料は揃っています。シリーズの入口としてかなり強い1冊です。
1巻としての役割
この1巻は、偽装カップルという作品の核を提示しつつ、楽の本命、小野寺との距離、千棘との衝突、約束の少女の謎まで一気に並べます。要素は多いのに散らからず、「この作品はここからどう広がるのか」がすぐに見えるのがうまいです。ジャンプのラブコメらしい読みやすさと、長編の引きの強さを両立した導入巻です。
1巻だけでも十分に楽しいですが、本当の強みは、偽物の関係がどこまで本物へ近づくのかと読者に意識させる点です。最初は反発しかなかった二人だからこそ、わずかな変化でも先が気になります。長期連載のラブコメとして、かなり入口の強い巻です。