レビュー
概要
本書は、イギリスに暮らす母と息子の日常を通して、多様性や差別、階級、ジェンダーといったテーマを「生活の言葉」に落として考えさせてくれる一冊です。社会問題の本というより、会話の本だと思いました。ニュースで聞いたことのある言葉が、教室や友達関係の中で、急に現実味を持って立ち上がります。
この本の良さは、綺麗な結論に着地しないところです。正しいことを言えば解決するわけではない。気をつけても傷つけてしまうことがある。それでも、話し続けるしかない。そういう現実の難しさを、親子の距離感で書いてくれます。
私は読んでいて、何度も「これ、日本の学校でも起きているよね」と思いました。国や文化が違っても、教室は小さな社会です。誰が多数派か、誰が黙る側か。笑いでごまかすか、言葉にするか。その選択が、日々の空気を作っていきます。
読みどころ
1) 「多様性」は優しい言葉なのに、現場は優しくない
多様性という言葉は前向きに聞こえます。でも実際の教室では、行き違いもあるし、悪意のない失言も起きます。ここを「加害者/被害者」の二択にしないで描いてくれるので、読者も自分の立ち位置を考えやすいです。
2) 親子の会話が、説教じゃなくて一緒に悩む形になっている
子どもに「こうしなさい」と言いたくなる場面でも、著者は考え続けます。親としての焦りがあるからこそ、言葉が現実的です。子育て本ではないのに、子育ての本としても読めます。
3) しんどいテーマを、日常の温度で読める
差別や階級の話は、読むだけで疲れてしまうことがあります。でもこの本は、日々の出来事から入っていくので、重さに飲まれすぎません。むしろ「考える体力」を少しずつ戻してくれます。
注意
差別的な発言や、学校での衝突の描写が出てきます。読んでいて苦しくなったら、無理に一気読みしないのがおすすめです。区切りのいいところで止めても、また戻って来られます。
本の具体的な内容(ネタバレ控えめ)
学校の中で起きる出来事は、小さく見えても、本人には大事件です。言われた一言が残ったり、言い返せなかったことが引っかかったりします。この本は、そういう「あとから効いてくる違和感」を丁寧に拾います。
面白いのは、息子が成長するほど、答えのない問いが増えていくところです。正しい言葉を覚えるより先に、目の前の友達との関係がある。空気もある。自分の立場もある。だから悩む。その悩み方が、読者の中にも入ってきます。
私は読んでいて、「自分が傷つかないための言葉」と「誰かを傷つけないための言葉」は、似ているようで違うと感じました。どちらも大事で、どちらも難しい。だからこそ、話し続けるしかない。そう思わせてくれる本です。
読み方のコツ
この本は、メモを取りながら読むより、いったん感情で読んだほうが刺さります。読後に残った一文だけを拾う。そこから自分の経験を思い出す。そういう読み方が合います。
もし親子で読むなら、感想を立派に言わなくて大丈夫です。「ここ、どう思った?」を1つ聞く。それだけで会話が始まります。会話が始まること自体は、いちばんの価値だと思います。
こんな人におすすめ
- 多様性や差別の話を、生活の言葉で考えたい人
- 子どもや若い世代のリアルな空気を知りたい人
- 教室や職場の「なんとなくの空気」が気になる人
- 重いテーマでも、読後に考える余白の残る本が好きな人
読後にできる小さなこと
読み終えたあとに、何かを立派に決めなくても大丈夫です。おすすめは、次のどれか1つだけやることです。
- 最近ひっかかった言葉を1つ思い出して、なぜ引っかかったかを書いてみる
- 「言い返せなかったこと」を、次はどう言うかだけ考えてみる
- 相談できる人を1人決めておく(相談するのは今じゃなくてもいいです)
この本は、読後に急に強くなるための本ではありません。揺れたままでも、言葉を探し続けるための本だと思います。
こんな場面で効く
SNSやニュースで空気が荒れているときに読むと、言葉が急に現実に戻ってきます。「正しさ」を競うより先に、目の前の人とどう話すか。そこに焦点が戻るからです。
教育や差別の話を考えたいけれど、専門書を読む体力がない日にも合います。生活の話から入れるので、重さに飲まれすぎません。
類書との比較(「正解」を配るより、会話を残す)
多様性や差別を扱う本は、知識を整理してくれるタイプも多いです。もちろんそれも大事です。でもこの本は、知識の前に「今日、教室で何が起きたか」から始まります。だから、読んでいて身体感覚が残ります。
「こう考えるのが正しい」と決めるより、「どういう言葉が出て、どういう空気が残ったか」を覚えておく。私はそこが、この本の強さだと思いました。正解を覚えるより先に、会話の癖を見直したくなります。
感想
この本を読んで、価値観が変わったというより、価値観の扱い方が変わりました。正しさを掲げるだけでは、現実は動かないことがあります。でも、黙ってしまうと何も残らない。だから言葉を探す。その姿勢が、読者の中に残ります。
「ブル-」という言葉には、落ち込みだけではなく、考える時間の色も入っている気がしました。明るくも暗くもない場所で、ちゃんと悩む。そういう読書がしたいときに、すごく相性がいい一冊です。