レビュー

概要

『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』は、家族の話なのに、湿っぽさだけで終わらないエッセイです。読んでいて笑ってしまう場面があるのに、次の瞬間、胸の奥がじわっと痛くなる。感情が忙しい。でも、その忙しさが「ちゃんと生きてる話」だと感じさせてくれます。

タイトルがすでに強いんですよね。「家族だから」ではなく「愛したのが家族だった」。血縁や役割の前に、感情の事実が置かれている。私はここに、この本の誠実さが全部詰まっていると思いました。

文庫版は「+かきたし」とある通り、追加の文章も含まれます。初めて読む人はもちろん、すでに読んだことがある人にも、もう一度手に取る理由が作られています。

読みどころ

1) 笑いが“強がり”じゃなく、生活の技術になっている

つらい話を笑いに変えると、軽く見えることがあります。でもこの本は逆で、笑えるからこそ、つらさが現実の重さで伝わります。笑いが逃避ではなく、生活を回すための知恵として機能している感じです。

2) 「正しさ」より「関係」を選ぶ場面が多い

家族って、正論だけで片づかないことが多いです。誰が悪いでもないのに、苦しい。善意でもぶつかる。そういう場面が、きれいごとじゃない温度で書かれています。読者の内側の、言葉にしにくい感情へ触れてきます。

3) “ケアされる側/する側”の単純な二分じゃない

支える、支えられる、助ける、助けられる。関係が固定されると苦しくなります。でも本書は、その関係が揺れ続けることも描いてくれます。だから、読み終えたあとに残るのは説教ではなく、少しやさしい視点です。

注意

本作には、病気や障害、喪失、介助やケアに関わる描写が出てきます。心が疲れているときは、無理のないペースで読むのがおすすめです。

本の具体的な内容(ネタバレ控えめ)

この本は、家族の中で起きる出来事を、日記のように淡々と並べるタイプではありません。出来事があって、気持ちが動いて、その気持ちをどう扱ったかまで書かれます。だから、読者は「出来事の大きさ」より「感情の揺れ」に反応します。

特に印象に残るのは、しんどさを無理に美談にしないところです。頑張ったから偉い、みたいな話に寄せない。その代わり、今日を回すための工夫が丁寧に出てきます。だから、読んでいる側も「自分の生活の話」として受け取りやすいんですよね。

私が好きだったポイント(言葉が“自分の味方”になる)

この本は、状況が大変なのに、文章がやけに明るい、みたいな違和感がありません。軽く書いて誤魔化さない。でも重く書いて、読者を沈ませることもしない。バランスの取り方がすごく上手いです。

読んでいて何度も思ったのは、「言葉があると、人は少しだけ楽になる」ということでした。出来事を変えられなくても、受け取り方が変わる。誰かに理解されなくても、自分の気持ちを自分で否定しなくて済む。そういう意味で、この本は“気持ちを守る言葉”をくれる本だと思います。

読後にできる小さなこと

もし読んでしんどくなったら、無理に前向きにならなくて大丈夫です。その代わり、次のどれか1つだけやると、読書が生活に残りやすいです。

  • いま抱えている「しんどさ」を1文だけ書く
  • 自分に向けて「今日はこれで十分」と言う
  • 連絡できる人を1人思い浮かべる(連絡は明日でもいい)

本は解決してくれないこともある。でも、抱え方は変えてくれる。私はこの作品をそういう位置づけで読んでいます。

読み方のコツ

この本は、全部を一気に読むより、少しずつ読むのも合います。刺さる章があると、思ったより体力を使うからです。読んでしんどくなったら、いったん閉じていい。戻って来られる本だと思います。

読後におすすめなのは、心に残った一文を1つだけメモすることです。感想を立派にまとめなくても大丈夫です。「この言葉が残った」で十分。その1つが、自分の生活の解像度を上げてくれます。

こんな人におすすめ

  • 家族の話を、きれいごとじゃない温度で読みたい人
  • つらい話でも、笑いと一緒に受け取りたい人
  • ケアや支え合いについて、言葉を探している人
  • 読後に、やさしい視点が残る本を読みたい人

逆に、合わないかもしれない人

この本は、勢いよくテンションを上げてくれるタイプではありません。じわじわ効くぶん、今すぐ気分転換したい人には重く感じるかもしれません。

ただ、読後に残るのは“正解”ではなく“視点”です。解決より、抱え方を変えたいときに、すごく相性がいいと思います。

感想

この本を読んで感じたのは、「愛する」って感情は、綺麗な瞬間だけでできていないということでした。むしろ、面倒な日や、余裕がない日や、言い方を間違えた日にも、愛は残る。その残り方が、すごくリアルです。

家族の話なのに、読み終えると「家族がいる人の本」ではなく、「誰かと生きている人の本」になる。私はそう思いました。タイトルの言葉が、読む前より少しだけ自分のものになる。そんな読書体験でした。

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