レビュー
概要
『たいのおかしら』は、さくらももこさんのエッセイを読み慣れている人ほど、「やっぱりこの人の観察眼、独特だな」と思わされる一冊です。日常のどうでもいい出来事が、文章の中で急に事件になる。でも、読者を疲れさせる事件ではなく、笑って流せる事件として残る。その“変換”が上手いんですよね。
タイトルからしてもう不思議ですが、中身もちゃんと不思議です。なのに、最後にはなぜか生活の手触りが残る。きれいに整った感動ではなく、「人生ってこういう変な瞬間の連続だよね」という納得が残ります。笑いと現実の距離が近いエッセイです。
読みどころ
1) “変なこと”を、変なまま置いておける強さ
普通なら「意味が分からない」で終わる出来事を、この本は「意味が分からないまま面白い」にしてしまいます。説明しすぎないからこそ、読者の想像が動いて笑いが増える。ここが本当に上手いです。
2) 自分も他人も、ちょっと冷静に見られるようになる
さくらももこさんのエッセイは、感情に飲まれている状態を、少し外側から眺めさせてくれます。落ち込んでいるとき、イライラしているときに読むと、「まあ、そういう日もあるか」と一度止まれる。だから、気分転換としてちょうどいいんですよね。
3) どこから読んでも成立する“生活の短編”
短い話が並ぶので、まとまった時間がなくても読めます。電車の中で1話、寝る前に1話。読書のハードルは低いのに、満足感が残ります。ここが強いです。
本の具体的な内容(ネタバレ控えめ)
この本も、日常の出来事や思い出が中心です。ただ、笑いの作り方は一貫していて、「本人の感情が動いた瞬間」を切り取って、少し変な方向へ転がします。だから、読者はストーリーに引っ張られるというより、語り手の視点のクセへ引っ張られる感じになります。
面白いのは、話の終わり方です。スパッと落ちることもあれば、落ちないまま終わることもある。でも、その落ちなさがリアルで、むしろ笑える。人生って、だいたい落ちないまま次の日に行きますよね。その感覚がそのまま文章になっています。
類書との比較
同じさくらももこさんのエッセイでも、『もものかんづめ』が「初手から笑わせにくる」強さなら、『たいのおかしら』はもう少し“変さ”が前に出る印象があります。笑いが直球というより、変化球で刺してくる。
エッセイ全般で見ても、共感で寄せすぎないところが好きです。「分かるでしょ?」ではなく、「私はこう見えたんだけど、あなたはどう?」という距離感。だから、読者が自分の生活を重ねやすいんですよね。
こんな人におすすめ
- さくらももこさんのエッセイが好きで、別の一冊も読みたい人
- 気分が落ちていて、重い作品を読む余裕がない人
- 笑いたいけれど、雑な元気づけは苦手な人
- 日常の“変さ”を面白がれる人
感想
この本を読んで思ったのは、笑いって「現実を否定しない」形でも成立するんだな、ということです。むしろ、現実の変さをそのまま受け入れた上で笑えると、心が少しだけ楽になる。『たいのおかしら』は、そういう笑いをくれる本でした。
疲れているときって、ポジティブな言葉をもらうより、「変な日だったね」で終われる方に救われることもあります。この本はまさにそれ。読み終わって元気になるというより、力が抜ける。その力の抜け方が、すごく助かります。
気になる話を1つ読むだけでも、気分が少し切り替わる。だから、手元に置いておくのに向いている一冊だと思います。
読み方のコツ
この本は、オチの強さで笑わせるというより、「その言い方、ずるい」で笑わせるタイプです。なので、テンポよく読むのがおすすめ。引っかかった表現があったら、そこで少し止まって味わうと満足度が上がります。
エッセイって、気分が合わない日に読むと刺さらないこともありますよね。そういう日は無理に読み進めなくて大丈夫です。1話だけ読んで閉じる。あるいは、別の話へ飛ぶ。それが許される構成なので、読み手のコンディションに合わせやすいのが良いところです。
こんなタイミングでおすすめ
人に優しくする余裕がなくて、自己嫌悪が出てきた日。仕事や家事が空回りして、投げ出したくなった日。そんなときにこの本を読むと、「まあ、そういう日もある」と一度止まれます。気合いを戻すというより、緊張をほどくための一冊だと思います。
個人的には、読後に無理に前向きにならないところも好きでした。笑ったら、それで今日は十分。そういう終わり方が許されます。
エッセイの“明るさ”に疲れてしまう人にも、試してみてほしいです。
軽いのに雑じゃない。短いのに余韻がある。そういうエッセイを探している人に、ちょうどいいと思います。
気づいたら、もう1話だけ読みたくなります。
その「もう1話」が、今日を乗り切るごほうびになります。
ありがたいです。