レビュー
概要
『アイアムアヒーロー 完全版』は、ゾンビパンデミックを描いた花沢健吾の諸行動を再構築した特別版で、1巻には連載当時のカラーページの再録と新たな描き下ろしを加えた構成になっています。35歳の漫画家アシスタント・鈴木英雄を主人公に、日常と狂気が混ざり合うリアルな描写で読者を引き込むシリーズの始まりです。
読みどころ
ウェブで日々の仕事をこなしながら도、主人公は不安と妄想をぶつける。物語は、彼が恋人と距離を取りつつ、世界に漂う感染症による崩壊に気づく過程で展開します。特徴的なのは、遠近法やページレイアウトで読者に心理的な揺らぎを与え、静かな場面でも画面の密度が高いところ。完全版では、従来版よりもさらに画面を重くし、狂気が徐々に静かに広がってゆく様子を丁寧に描いています。
類書との比較
同じゾンビ漫画の代表作である『寄生獣』は人間とパラサイトの対立に哲学を載せる一方、本作は日常感と恐怖感の間を細い糸で渡るような構成です。『プラネテス』のような静かなSFが哲学性を重視するのであれば、『アイアムアヒーロー』は日常と非日常の境界線を視覚的に問い直すスタイルに特有の魅力があります。
こんな人におすすめ
- 本格的なホラーよりも「日常の違和感」から恐怖を広げていくタイプのゾンビ作品が好きな人
- 「自分の虚無感や停滞感」に耐える主人公をじっと見ていたい人
- ストーリーテリングの段階的な崩壊描写を味わいたい場面/構成重視の読者
感想
完全版のカラーページや追加の描き下ろしは、原作を知っている読者にとっても新鮮な驚きで、描線の緻密さや階層的な陰影が生々しいです。主人公が自分の妄想を漫画の中に閉じ込めていくプロセスは、読み手の中にも適度な「救いがない」読書体験を生み出すため、全体を通じて落ち着いた狂気が漂う、強度のある序盤となっています。