レビュー
概要
29歳の冴えない会社員・藤本幸世は、これまで恋愛が縁遠かった男。その幸世に突如訪れた「モテ期(Mote-ki)」が本作の軸で、同じ職場の先輩・小林、週刊誌の編集者・松本、そして自分を慕う女子大生・長澤など、様々な出会いが入り乱れる。第1巻では、自分が恋愛できる器ではないという自己像を一旦打ち破ることで、他人の時間を巻き込んだトラブルと誠実なやり取りが同居するコメディとヒューマンドラマが同時に展開される。
読みどころ
- まるで「恋愛のリハーサル」かのように、幸世は誰かに対する思いを紙に書いて、自己批判しながらも行動していく。その滑稽さそのものが、「モテ期」という言葉を現実的に描き出す仕掛けで、漫画的な演出に頼らず、観察日記のような視点で心の揺れを切り取っている。
- 思いを寄せる女性たちの背景や、本音を語れない彼の悩み、音楽や映画の話題が散りばめられることで、単なる恋バナではなく「自分の生きる時間」の重さに手を伸ばしている。ことあるごとに先輩・薬師寺のアドバイスが入るが、彼もまた過去の恋を引きずっており、同じ大人の迷いを映し出す鏡になる。
- コマの間に入る「妄想ライン」や「モテキの掟」などの定型ギャグが、ラジオや映画などメディアの言葉とタイポグラフィをつなぎながら、幸世のテンポ感を視覚的に記述している。恋愛の行き先が読めないという不安を、はみ出すような擬音とモノローグが解決しており、過去の恋愛マンガよりも上質なシニカルさを感じる。
類書との比較
『東京タラレバ娘』が女性の焦りと社会的価値を描くように、『モテキ』は男性側の「火がつかない焦燥」を描く。『高橋留美子』系のテンポ重視なラブコメとは違って、音楽とメディアへの言及を交えながら「自己評価」と「他人評価」の間に立つ点で『ぎんぎつね』などの大人向け作品に近い。現実の焦りをこね返す構造は『僕らはみんな河合荘』のような群像劇の照明とも響きあい、一皮むけた恋愛観を提供する。
こんな人におすすめ
- 過去の恋愛の失敗を笑い飛ばしながらも、次のステップへ進みたいと考えている30代前後の読者。
- 働く大人の視点から、恋の駆け引きと自尊心のバランスを見極めた作品を探している人。
- 落ち着きのある絵柄で、自己問答が笑いと共に進むラブコメを読みたい人。
感想
幸世の恋愛が実際にはよくわからないまま進むところにリアルさがある。本人は完璧なタイミングを狙っているのに、相手のスケジュールや感情が次々と裏切り、「モテキとは何だったのか」と自問自答するラストが胸に残った。ギターのフレーズや映画のタイトルが効果的に挿入されるので、読後には自分の人生のプレイリストをつくるような気分になる、等身大の男のラブストーリーが心地よい。