レビュー
概要
『鉄コン筋クリート』1巻は、宝町(たからちょう)という街を舞台に、クロとシロという2人の少年が、街の光と闇を丸ごと抱えて走り回る物語です。
ストーリーを説明しようとすると「少年たちと街の抗争」になりますが、読み味はもっと混ざっています。暴力の匂いもあるのに、どこか童話っぽくもある。現実的なのに、夢みたいでもある。その揺れが、この漫画の魅力です。
クロは鋭くて攻撃的で、街の危険に敏感です。シロは幼さを残し、空想に寄りかかりながらも、クロの隣で同じ景色を見ている。この2人の“並び”そのものが、宝町という街の温度を決めています。
読みどころ
1) 街がキャラクターとして立ち上がっている
宝町は、ただの舞台装置ではありません。路地の狭さ、看板の密度、光の反射、汚れた壁。そういう情報がページに詰まっていて、読んでいると「ここに住んでいる」感覚が出てきます。
だから、街が壊れそうになると怖い。建物の話なのに、体の一部をもがれるみたいな恐怖になる。1巻でそこまで感じさせるのがすごいです。
2) クロとシロの関係が、甘さだけでできていない
2人は仲がいい。でも依存もあるし、危うさもあります。クロはシロを守ることで自分を保っているように見えるし、シロはクロがいないと現実に耐えにくい感じがある。
このバランスは、読んでいて胸が苦しくなる瞬間もあります。けれど、その苦しさがあるから、2人の絆がただの美談になりません。
3) 暴力の描写が、かっこよさに寄りすぎない
抗争や殴り合いがあっても、爽快感だけで終わらないのが本作です。痛みがちゃんと痛い。傷は残るし、街にも影が落ちる。
その分、少年たちが必死に走る意味が重くなります。勝ち負けより、「ここを守る」「ここから追い出されない」が切実になる。1巻の時点で、その切実さが立ち上がっています。
1巻で効いてくる要素(大人の論理が入り込む怖さ)
宝町は、クロとシロにとって“家”です。彼らは路上で暮らしているのに、街全体が自分の部屋みたいに見えている。だから、よそ者が街のルールを変えようとすると、身体の内側がざわつく感じになります。
1巻では、裏社会の匂いの濃い大人たちが、宝町に入り込もうとします。力の種類が違う。腕力の強さではなく、金や組織の論理が出てくる。その瞬間、少年たちの世界が急に狭く見える。ここが怖いです。
そしてクロの攻撃性は、単なる強さではなく、防衛反応として見えてきます。守るために噛みつく。でも噛みつくほど、孤立も深まる。1巻の時点で、その矛盾が立ち上がっています。
1巻の見どころ(「走る」ことが、祈りみたいになる)
この漫画のクロとシロは、とにかく走ります。路地を抜けて、段差を飛び越えて、屋根を伝って、街の上と下を行き来する。その動きが、ただのアクションじゃなくて、宝町を“確かめる”行為に見えるんですよね。
自分たちの居場所がまだここにあるか、昨日と同じ匂いがするか。走りながら街の体温を測っているみたいで、読んでいる側まで息が上がります。
同時に、その走りは危うさでもあります。
大人の世界が本気で入り込んできたら、足の速さだけでは逃げ切れない。
だからこそ、クロの焦りは鋭くなるし、シロの空想は、いびつに膨らむ。
1巻の時点で、2人のバランスが崩れそうな予兆もきちんとある。
その不穏さが怖いし、引き込まれます。
こんな人におすすめ
- 独特の絵と空気感に、どっぷり浸かりたい人
- 街や生活の匂いがする作品を好む人
- 明るさと暗さが混ざった物語を読みたい人
感想
この1巻を読んでまず思うのは、「こんな漫画、他にない」です。コマ割りのリズムが独特で、目が滑らない。風景の情報量が多いのに、読みにくさではなく“圧”としてくる。宝町の空気が、紙の上から立ち上がってきます。
クロとシロの会話は、たまに荒っぽくて、たまに詩みたいです。その落差が、子どもっぽさと大人っぽさの同居として効いている。
個人的に好きなのは、シロの空想がただの癒しではなく、現実とぶつかるための盾にもなっているところです。優しさが弱さに見える瞬間もあるのに、それでも必要な優しさとして描かれている。
物語としてはまだ始まりなのに、街と2人の関係性だけで引き込まれます。宝町がどうなっていくのか、クロとシロがどこへ行くのか。続きを読まずにはいられない導入巻です。
読み終えたあと、宝町の路地の湿度や、ネオンの色が頭の中に残ります。映像作品を見たみたいに、景色がこびりつく。そういう意味で、この漫画は“体験”に近いです。1巻は、その体験の入口として、十分すぎるほど濃いと感じました。
あと、1巻を読みながら何度も思ったのは、「この街が好き」という感情が、綺麗な言葉だけで描かれていないことです。宝町は汚いし、危ないし、裏切りもある。それでも、クロとシロにとってはここが“世界の全部”に近い。
好きだから守りたい、守りたいから傷つく、傷つくから余計に手放せない。その循環が、少年たちの目線で描かれているのが刺さります。宝町がどう変わっていくのか、2人がそれにどう抗うのか。続きを追いたくなる1巻でした。