レビュー
概要
『アオハライド 1』は、中学時代にひそかに惹かれていた男子と高校で再会した主人公・吉岡双葉が、「もう一度、あの頃の気持ちに手を伸ばす」ところから始まる青春恋愛漫画です。タイトルの“アオハラ”は、ただの甘い恋ではなく、青春の痛みや恥ずかしさまで込みの時間を指しているように感じます。
双葉は、中学の頃に「女子に嫌われたくない」という気持ちから、わざとサバサバした態度を選び、今の自分を作ってきた。でも高校に入り、素の自分でいたいと思い始めたタイミングで、かつての“田中くん”にそっくりな「馬渕洸」と出会う。1巻は、この再会が“運命”で片付かず、双葉の自己像そのものを揺らすところが良いです。
読みどころ
1) 恋愛が「自分の作り直し」と結びつく
双葉が向き合うのは、洸のことだけではありません。「嫌われない自分」を演じてきた癖をどうやって手放すか。恋はそのきっかけであり、同時に試験紙でもある。ここが、読んでいて刺さります。
2) “再会”が甘いだけじゃない
洸は、中学の頃の優しい雰囲気のままではありません。再会した相手が変わっているからこそ、双葉も「自分は何を好きだったんだっけ」と問い直すことになる。青春ものとして、入り口からちゃんと苦いです。
3) 友だち関係が現実的
高校生活は、恋愛より先にクラスの空気がある。双葉が新しい友人関係に踏み出す場面は、爽快というより緊張感があり、そこがリアル。1巻の段階で、恋愛と同じくらい“居場所”の話になっています。
本の具体的な内容
物語の起点は、双葉の中学時代の初恋です。相手は、どこか不器用で優しい「田中くん」。けれど、ある出来事をきっかけに転校してしまい、双葉は言葉にできないまま気持ちを置き去りにしてしまいます。
高校で出会うのが、同姓同名ではなく“似ているけれど別人”のように見える馬渕洸。名前も、雰囲気も、記憶を刺激するのに、肝心なところで距離がある。双葉は「本当に同一人物なのか」を確かめようとしながら、同時に「自分はどう見られているのか」を気にしてしまう。過去の自分(かわいくしていた自分)と、今の自分(わざと雑にしている自分)の間で揺れるのが、1巻の大きな推進力です。
そして、洸の側にも事情があると、少しずつ匂わせられます。中学の頃の洸と、高校の洸の間には“空白”がある。双葉が過去の恋を再開するには、その空白を無視できない。ここで、恋愛が「両想いになれば終わり」の話にならず、相手の時間を受け止める話になっていきます。
もう1つ、1巻で重要なのが「友だち」のラインです。双葉は高校で、女子から嫌われないように自分を偽り、“ガサツな女子”を演じることで立ち回ってきました。しかし、その立ち回りは双葉自身を息苦しくさせ、クラスで孤立している槙田悠里の存在が中学時代の自分と重なって見えてくる。恋愛の再会と並行して、双葉が「自分の好きな自分でいたい」と思い直し、クラスの空気の中でどう居場所を作るかが描かれます。
つまり1巻は、恋が始まる巻であると同時に、双葉が“自分の性格の選び直し”を始める巻です。田中洸だったはずの相手が「馬渕」と呼ばれていて、性格もクールに変わっている。その事実が、双葉にとっては「過去の答え合わせ」ではなく、むしろ新しい問いになる。青春の再会ものを、甘い回収にしない作りが印象的でした。
こんな人におすすめ
- 恋愛漫画が好きだけど、甘さだけで終わらない作品が読みたい人
- 「嫌われない自分」を作って疲れている人
- 中学・高校の“居場所”の感じを思い出したい人
- 再会ものが好きで、変化やすれ違いも含めて味わいたい人
感想
1巻の良さは、青春が“キラキラの記憶”として描かれないことだと思います。双葉は、かわいくいることに傷つき、サバサバを演じることでも傷つく。どちらも嘘ではないけれど、どちらも窮屈。その窮屈さに、洸との再会が火をつけます。
恋の始まりが、自己肯定感の回復と結びついているから、読後に残るのはドキドキだけではありません。「自分が本当はどうしたいか」を言葉にする勇気。1巻は、その勇気を出す前の、いちばん恥ずかしくて痛いところを丁寧に描いた巻でした。
雨の日の距離の縮まり方や、祭りの約束が消えてしまう切なさなど、思い出の描写が“美化”ではなく“未回収の痛み”として残るのも良かったです。再会は奇跡ではなく、過去の未整理が現実に戻ってくる出来事。だから、双葉が前に進むには、洸の変化だけでなく、自分が選んできた振る舞いも見直さないといけない。恋愛漫画の1巻として、ここまで「自己像」をテーマに置けるのは強いと思いました。
読み終えると、恋の結論より先に「高校生活はここからだ」と感じます。好きな人に近づくことも、友だちを作ることも、結局は“自分の言葉で話す”ところから始まる。双葉がその入口に立つまでの揺れが、1巻の核心でした。