Kindleセール開催中

801冊 がお得に購入可能 最大 99%OFF

レビュー

概要

『うずまき』1巻は、「うずまき」という形そのものを呪いとして立ち上げ、町と人間がねじれていく過程を描くホラー漫画です。舞台は黒渦町。主人公は黒渦高校の生徒・五島桐絵と、隣町の高校に通う恋人・斎藤秀一です。秀一は早い段階から「この町はうずまきに汚染され始めている」と感じ取り、桐絵に駆け落ちを提案するほど危機感を募らせていきます。

1巻が怖いのは、怪異が派手な怪物として現れる前に、日常のディテールへ入り込んでくることです。路地で壁のカタツムリの殻を見つめ続ける秀一の父。髪の毛や傷跡のように、身体に“形”が宿る瞬間。読み進めるほど、うずまきが比喩ではなく、物理的な支配として迫ってきます。

※本作は強い不快感を伴うボディホラー表現があります。苦手な方は注意してください。

収録エピソード(1巻)

1巻には「うずまきマニア:その1」「うずまきマニア:その2」「傷跡」「窯変」「ねじれた人びと」「巻髪」などが収録されています。連作短編の形式を取りつつ、黒渦町の“異常”が段階的に濃くなる構成です。

読みどころ

1) うずまきマニア:恐怖の始まりが「観察」から始まる

最初の恐怖は、叫び声ではなく凝視です。秀一の父は、うずまきの形をしたものに取り憑かれたように集め、やがて「うずまきは自分でつくりだすもの」という発想へ行き着く。ここで作品が容赦ないのは、理屈をまとった狂気が次の狂気を呼ぶ点です。恐怖は偶然ではなく、論理で加速していきます。

2) 身体が“形”に侵食される不気味さ

「傷跡」や「巻髪」では、体や髪といった身近なものが、うずまきの運動へ回収されていきます。伊藤潤二の画は細密で、皮膚の質感や髪のうねりが美しい。その美しさが、そのまま嫌悪感へ反転するのがこの作品の怖さです。嫌いなのに目が離せない、という感覚がずっと続きます。

3) 町そのものが“装置”になる

黒渦町は、逃げれば終わる舞台ではありません。逃げようとする意思すら、町の力学に吸い込まれていく。短編を積み重ねているように見えて、実際には町全体が1つの巨大な装置として動き始めているのが分かります。日常の景色が少しずつ変形し、いつの間にか帰れない場所になる。この地ならではの閉塞感が強いです。

こんな人におすすめ

  • 怪異の“説明”より、感覚としての恐怖を味わいたい人
  • ボディホラーや不条理ホラーが好きな人
  • 1話ごとの完成度が高い連作短編を読みたい人

『うずまき』1巻は、恐怖の世界を紹介する導入というより、すでに帰れない地点まで読者を連れていく巻です。黒渦町の異常は、誰か一人の異常ではなく、形そのものの感染として広がる。うずまきというありふれた図形が、ここまで禍々しく見えるようになる時点で、作者の勝ちだと思いました。

1巻が“導入”に見えて、すでに決定的である理由

第1話の時点で、秀一は「うずまきだ。このまちはうずまきに汚染され始めている」と口にします。読者はまだ何も見ていないのに、登場人物が先に確信している。この構図が怖い。説明の前に確信があると、町の出来事がすべて「遅れて届く災厄」になります。

さらに不気味なのは、うずまきが“見た目の模様”から始まって、“行動”へ侵食していく点です。秀一の父がうずまきの形を集め始めるのは、趣味の延長に見える。ところが次第に「自分でうずまきを作る」という発想へ踏み込み、身体の形そのものを変えていく。狂気が理屈を伴うときの怖さが、ここにあります。

読後に残る感覚

この作品は、怖いのに読めてしまうのがいちばん怖い。細密な線で描かれた町の路地、人物の表情、髪の流れや皮膚の質感が、現実の温度を持っているからです。現実味があるぶん、怪異が入ってきたときに「ありえない」と切り離せない。読後しばらく、日常の中のうずまき模様が、少しだけ不穏に見えるようになります。

ホラー漫画の“名作”と呼ばれる作品は多いですが、『うずまき』は「テーマが勝っている」のではなく、「テーマが世界を乗っ取る」設計になっている。1巻は、その乗っ取りが始まる瞬間を、最も気持ち悪い形で見せてくれます。

1巻で印象に残る人物と出来事

斎藤秀一の父・敏夫は、うずまきの形に取り憑かれ、会社にも行かず集め続けます。やがて彼は、自分の身体を丸め、桶の中で“うずまき”になって死ぬ。ここまで露骨に「形」が人を殺すのに、描写が妙に静かなのが怖いです。

さらに異様なのは、その死が家の中で終わらないこと。敏夫の火葬の煙がうずまきとなって町のトンボ池へ吸い込まれ、それ以降の火葬でも同じ現象が起きる、という設定があります。個人の狂気が、町のルールへ変わっていく。黒渦町という閉じた空間が、少しずつ別世界へ転落していく感覚が、1巻の段階ではっきり提示されます。

桐絵と秀一の関係も、甘い恋愛としては読めません。秀一は桐絵を守りたい一方で、町そのものを憎み、焦り、苛立つ。桐絵は日常を続けたい気持ちもある。逃げるか残るかという二択の手前で、2人の心が揺れる。その揺れがあるから、怪異が“人間の外側”だけの話に見えなくなります。

この本が登場する記事(1件)

本の虫達

要約・書評・レビューから学術的考察まで、今話題の本から知識を深めるための情報メディア

検索

ライター一覧

  • 高橋 啓介

    高橋 啓介

    大手出版社で書籍編集を10年経験後、独立してブロガーとして活動。科学論文と書籍を融合させた知識発信で注目を集める。
  • 森田 美優

    森田 美優

    出版社勤務を経てフリーライターに。小説からビジネス書、漫画まで幅広く読む雑食系読書家。Z世代の視点から現代的な読書の楽しみ方を発信。
  • 西村 陸

    西村 陸

    京都大学大学院で認知科学を研究する博士課程学生。理系でありながら文学への造詣も深く、科学と文学の交差点で新たな知の可能性を探求。
  • 佐々木 健太

    佐々木 健太

    元外資系コンサルタントから転身したライター。経済学の知識を活かしながら、健康・お金・人間関係の最適化を追求。エビデンスベースの実践的な知識発信を心がける。

Social Links

このサイトについて

※ 当サイトはアフィリエイトプログラムに参加しています。